八「はー、売れっ子だ」

隠「だが、この水無月花魁には故郷に将来を言い交わした男がいた。水無月はその男に操を立て続けたんだよ」

八「えー!? だって花魁でしょ! 無理でしょう!」

隠「白無垢がな……一晩かけても脱げないんだよ。帯の結び目やら紐やらが固くて、そのうえ十二単衣のように何枚も重ね着してるから、どんな客がかかっても裸にできない。初めは怒って帰る客もいたがそのうちそれが名物になり、色気も相まって『何もせずとも花嫁姿の水無月と一晩過ごせれば本望』という客が押し寄せた。年が明け、自由の身となり故郷に帰った水無月。その男と一緒になり、その折には馴染み客から沢山の祝いが届き、皆に祝福され幸せな花嫁となった。それ以来だよ。日本でも 『六月(水無月)の花嫁は幸せになる』と言われるようになったのは……」

八「……なるほど、じゃ日本の『六月の花嫁』の元祖はその水無月花魁ってことですね? で、今日のソープランドまで続いたということですか?」

隠「そうだね」

八「なるほど、聞いてみなきゃわからねえなあ! またひとつ利口になりましたわ!」

 ……みたいな作り話をつらつら書いてみた。結局何が言いたいかというと『六月の花嫁』って店名、傑作じゃないですか?

週刊朝日  2019年6月28日号

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら