3カ月後にスペインのデュランに負けたときは、「さすがに、もう引退だろう」と誰もが思ったらしいけど、まだいける自信があった。やり切った、とは思えなかった。これまでだって「勝ち目はない」と言われた試合に勝ってきたんだしね。

 だけど、34歳のロートルが4度目のチャンピオンになれるほど、ボクシングは甘くなかったね。ニカラグアのガソとやったんだけど、11回KO負け。初めてタオルを入れられて、俺のボクシング人生も、そこでジ・エンドです。

 もっとスマートなやり方もあったかもしれない。でも、俺はそういう不器用なボクシング人生を送ったことを誇りに思ってる。誰にも負けないぐらいがんばった。それは自信を持って言える。

 余力なんて残さずに全力をぶつけないと、ホントのところは何にも手に入らない。第一、やってても面白くないじゃない。

――引退後に選んだ道も、世間の意表を突いた。輪島が始めたのは、おだんご屋さん。知り合いの店で修業を積んだのち、「だんごの輪島」をオープンした。

 焼き鳥屋をやらせてやるって人もいたんだよ。5店舗ぐらいなら、資金も従業員も用意してやるってね。だけど、酒の商売をやったら、客とケンカしちゃうかもしれない。ほら、すぐカッとしちゃうほうだからさ。

 その点、だんごなら心配ない。近所のおばちゃんたちが、毎日楽しみに寄ってくれる。カミさんとふたりで店を切り盛りして、1本25円ほどのだんごを買ってもらって、たまに新しい商品を考えたりして、楽しかったな。今はカミさんの妹夫婦に任せてるんだけど、けっこう近所の人にひいきにしてもらっているみたいだよ。

 今は「輪島功一スポーツジム」に来ている若い選手が、成長して活躍してくれるのが楽しみだね。

 それと、ぜひ言っておきたいんだけど、裁判所は(確定した死刑判決の再審開始が認められた後、取り消された)袴田巌さんを早く無罪にしてやってほしい。彼は元ボクサーなんだけど、本当にああいうことはあっちゃいけないんだ。

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