結城教授によれば、ベッド数を増やせば増やすほど、介護職員も必要となるが、その分、職員数に応じた介護報酬が得られる。このため、職員の頭数だけそろえるという考えの施設も存在するという。

「経営者は職員を採用するときに、本当に介護の現場にふさわしい人物かしっかりと見極めるべきだ。特に重視すべきは、なぜこの職を選んだかという動機。そこをきちんと見極めることだ。そして介護報酬は減るが、ベッド数を減らして職員のシフトを余裕あるもの、ストレスのかからないものにすべきだ」

 介護のマインドに相反する利益優先主義が事件の背景にある、と指摘する。

 では実際に入居することになる家族を虐待に遭わせないためにはどのような施設を選ぶべきなのか。結城教授によると三つのポイントがあるという。

「まず施設の担当者に職員の離職率を尋ねること。職員が定着しないということは職場に何らかの問題があり、虐待も起こりやすい。はっきり答える施設は誠意があると考えられるので信用して良い。一方で回答を濁したり隠したりするようであれば赤信号。絶対に契約してはいけない」

 二つ目は家族が頻繁に施設を訪問することが重要だという。家族が常に入居者のそばにいれば、職員は緊張感を持って接するのだ。

 三つ目は地域に開かれているかどうか。地元のボランティアなどが定期的に施設を訪れてイベントなどを行っているかどうかもチェックすると良いという。

「地元の人の出入りがある施設は、オープンで隠し事がない。従って虐待が生まれにくい風土がある施設と判断できる」

 団塊の世代が80歳を迎える今後10年で、介護施設もさらに人手が不足し、対策を打たなければ状況は深刻化する一方と予想される。

「ただ与えられるものという福祉の概念から一歩進んで、しっかりと消費者目線で施設を選んでいくことが重要だ」

 介護施設選びにも主体性が求められる時代がすぐそこまで来ている。(本誌・羽富宏文)

週刊朝日  2019年6月7日号