狩野代表は「越えなければならない3つの壁がある」と指摘する。

 まずは「年代の壁」。おちょこや升で飲むスタイルを敬遠し、日本酒よりもワインが好きな若者も少なくない。ワイングラスなら見た目もオシャレで、ワイン感覚で楽しむことができる。若い世代にちょっと値段が高くても本当においしい日本酒を買ってもらうには、ワイングラスが必要なのだ。

 次は「国境の壁」。国内市場が縮小するなか、多くの蔵元は米国などの海外に目を向ける。海外の一部では日本酒ブームが起きており、輸出は着実に伸びている。政府や自治体も輸出支援に積極的だ。外国人が慣れ親しむワイングラスで飲んでもらうことで、日本酒の味や香りの良さをPRできる。

 最後は「業態の壁」。日本酒に合う料理は和食だけとは限らない。チーズ、オリーブ、キャビア、ムール貝、スペアリブ……。アワードの会場の蔵元たちに聞くと、いろんな食材を次々と挙げてくれた。
 人気酒造(福島県二本松市)の代表取締役、遊佐勇人さんはこう勧める。

「日本酒はわさびじょうゆの刺し身に合うのは当たり前ですが、オリーブオイルとこしょうのカルパッチョにして合わせてもおいしいですよ」

 フランス料理やイタリア料理など、和食以外の店でも幅広く提供してもらえれば、市場は大きく広がる。日本酒を再興するにはワイングラスの力を借りるのが近道なのだ。

「日本酒が登場するシーンを世界中で増やしたい。フランス料理店やイタリア料理店にも日本酒が置かれてワイングラスで飲む光景が、普通になってほしい。いろんな場面で飲まれるようになれば、若者や女性、外国人らにおいしさに気づいてもらえるはずです」(狩野さん)

 アワードの会場では若い女性の姿も目立った。駆けつけた「Miss SAKE JAPAN」も乾杯の音頭をとり会場を盛り上げた。日本酒造組合中央会の小西新太郎副会長も満足げだ。

「若い女性にも日本酒のおいしさが浸透してきている。次は若い男性に親しんでもらいたい」

 ワイングラスという伴侶を迎え、3つの壁をどこまで超えていけるのか。日本酒の挑戦はこれからだ。
(佐藤一夫)

※週刊朝日オンライン限定記事