働き方事情に詳しい千葉商科大学の常見陽平専任講師が言う。

「新規事業の創造や営業力の強化、グローバル展開など、企業が直面する課題はいっぱいありますが、社内に詳しい者がいるとは限りません。採用して一から育てるとなると、時間もお金もかかります。それが顧問だと、大企業などで長年培った知見やノウハウを簡単に、しかも適切な“価格”で手に入れることができます」

 働く側にもメリットがある。

「顧問だとフルタイムで働く必要はありません。月2回とか週1回とか、ある程度、自分で選べます。仕事の中身も煩わしい管理業務はなく、自分の得意分野に専念すればいい」

 要するに、企業と顧問は「ウィンウィン」の関係になりやすいのだ。

 需要があるところにビジネスは生まれる。冒頭の勝倉さんのように、かつての同僚や取引先など人間関係に基づいた「ご縁」は旧来型だが、顧問になる新しい方法が出現、拡大している。人材業界に詳しい関係者が言う。

「顧問を求める企業と顧問になりたい元サラリーマンらをマッチングする『顧問派遣ビジネス』に、人材会社が大挙して進出しています。10年ほど前から始まり、今では大手を筆頭に20社はくだらない。最近はネット上でマッチングする手法も広がっています」

 やり方はこうだ。顧問派遣会社はホームページなどを通じて希望者を募る。一定の手続きを経て登録すると、担当者が面談して詳しい経歴や専門分野の中身を聞き取る。一方、企業側からも課題や悩みを聞き取り、それらを突き合わせて顧問候補者を絞っていく。

 千葉県の井澤典彦さん(64)は、人材大手「パーソルキャリア」の経営顧問紹介サービス「i‐common」に登録し、顧問先を紹介してもらった。東証1部上場の化学薬品メーカーの出身。農学博士の称号を持つ農薬の専門家で、グループ会社の社長まで務めた。

「現場が好きでもう少し『ワクワク』したくて、3年前に会社を辞めました。おかげさまで現在、4社の顧問を務めています」

次のページ