「立派な洋館でしたが、内装は質素です。古い家具も布をかけて、大切に使うご家庭でした。美智子さまも腕時計を修理して大切にお使いでした」

 近代の都市空間と建築に詳しい成田龍一・日本女子大教授(日本近現代史)が写真を解説する。

「暖炉つきの応接間と壁に飾られた燭台や西洋家具を置く一方で、縁側に似た和風建築も見られる。大正末期から昭和初期にかけて建築された和洋折衷様式の邸宅ですね」

 1930年代、東京の人口の増加に伴い品川や世田谷、目黒など東京郊外に新興の富裕層が和洋折衷様式の文化住宅や洋館を次々に建てた。

「特徴的なのは、子ども部屋の出現です。家人は独立した生活空間を持ち、接客のために応接室を有するなど西洋的な生活様式が、一般の家庭にも浸透した時期です。正田美智子さんの部屋で興味深いのは、洋書を含む書棚と蔵書です。この時代、高価な蔵書を持てたのは、一家の主人ぐらい。つまり、正田美智子さんは『個』を尊重する西洋的な思想の家庭で教育を受けた、知的な女性であることが伝わります。宮内庁は、『新しい皇室』の象徴のひとつとして正田家の写真を、世間に伝えようとしたのではないでしょうか」

(取材・文=本誌・永井貴子、鮎川哲也)

週刊朝日  2019年5月3日‐10日合併号