06年の第1回WBCでは、敗戦後にイチローがベンチでほえ、松坂大輔が決勝のキューバ戦で寝違えによる首痛を抱えながら先発マウンドに立った。「国のために」「野球界の未来のために」と世界一への重圧と闘った。スター選手の真剣さこそ、ファンの心を打った。「代表」は野球界の夢を背負える存在であり、選手から「出場したい」と切望される代表であってほしい。侍ジャパンの試合がある日に、各球団のオープン戦が開催されている。そちらに実績ある選手が出場する状況には、首をひねる。

 あえて、今回の試合で価値を見いだすとすれば、3月のWBCと違い、五輪は夏開催である。シーズン中のコンディションを見極めて選手を招集することになる。いきなり本番で初選出するよりも、代表経験があったほうが、選手は力を出せるという見方はできよう。ただ、それは選考面だけを見た話である。

 年間を通じて試合のある野球という競技に「代表」がどう関われるか、という根幹を考えた場合、今のままではいつかファンに飽きられてしまう。世界にも例のない「野球代表の常設化」の将来は、一部の者で考えても意味はない。今回のメキシコ戦を見ながら感じた率直な思いである。

週刊朝日  2019年3月29日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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