【活字鋳造】佐々木勝之さん(44)/「活字は終わった技術だが必要とされる限り続けたい」
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【セルロイド人形】平井英一さん(72)/「熱心なファンがいる限り“ミーコ”を作り続けたい」
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 何世代にもわたって磨かれた伝統の技術は「ものづくり大国・ニッポン」の基礎を作った。しかし、長く厳しい修業を経て一人前になる職人の育成システムが時代とマッチしなくなり、“タスキ”を渡すべき次世代が失われつつあるなか、最終走者となるかもしれない名人は何を思うのか──。

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■活字鋳造/佐々木勝之(44)

 350度に熱して溶かした鉛の板を、活字の金型である「母型」に送り込む活字鋳造機の前で、できあがった活字をチェックする。コンマ1ミリずれただけで、美しい印刷にならなくなるため、検品の目は自然と厳しくなる。

日本で数人しかいない活字鋳造職人である佐々木勝之さんが手がけた活字がなければ仕事ができなくなる印刷所がまだ多数ある。

 かつて印刷物の主流は活字を使った活版印刷だった。しかし、昭和50年代に入ると、活字を使わない印刷技術が普及してくる。活字を鋳造する佐々木活字店も存亡の危機を迎えた。

 勝之さんの父の代で廃業する計画だったが、「どうしても活字が必要という人が周りにたくさんいた。そんな活版印刷の仕事をなくしたくない」という強い思いから、10年以上続けた建設業界での施工管理の仕事を辞して8年前に家業を継いだ。

「活字はもう“終わった技術”で、私たちの置かれた環境が厳しいことは承知しています。でも活字でしか出せない、くっきりとラインが浮き出る印刷を好む人はいる。3Dプリンターが登場して、活字も作れるのではないかと期待した人はいたのですが、実際には活版印刷独特のラインは表現できませんでした。消耗品の活字は繰り返し使うにも限界があるので、活版印刷がある限り新品を作る職人は必要なんです」

 ベテラン職人に2年間、活字鋳造機の微調整の方法やカンナがけ、ブラッシング、検品を徹底的に習った。

「機械も道具もすでに生産されていない。修理のマニュアルもない世界。故障したら自力で修理するしかない。動かなくなった機械も処分しないで保存しておくのは、別の機械が壊れた時の部品用に必要になるかもしれないから。毎日が工夫と試行錯誤の連続です」

#データ
佐々木活字店
東京都新宿区榎町75

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