ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。違法ダウンロードに関する著作権法改正案に言及する。
【写真】ダウンロード違法化の拡大について審議した文化庁の文化審議会著作権分科会の様子
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文化庁の文化審議会著作権分科会は2月13日、映像と音楽に限定されていた「違法ダウンロード」の対象を、漫画や写真、文章やプログラムなど、あらゆる著作物に拡大することなどを盛り込んだ報告書を了承した。文化庁はこの報告書をもとに、著作権法の改正案を通常国会に提出する。
違法ダウンロードとは、インターネット上に違法にアップロードされた有償著作物を、海賊版と知りながらダウンロード(複製)する行為を指す。海賊版利用の抑止が急務なのは確かだが、スマホが普及し、ネットは日常生活と深く結びついている。国民の情報収集に不確実なリスクがもたらされるのではないか、萎縮するのではないかという懸念は払拭(ふっしょく)できない。
違法ダウンロードの対象拡大は、昨年10月末、文化庁の法制・基本問題小委員会の議題に突如組み込まれた。報告書はわずか5回の審議という異例の急ピッチで取りまとめられた。
その内容は控えめに言っても「生煮え」と評価せざるを得ない。複数の委員から、議論や検証が不足しているとの意見が相次いでいた。にもかかわらず、いまの国会での法案成立を目指す文化庁の事務方が、強引に取りまとめた格好だ。
このなりふり構わぬ“暴走”の背景には、政府のブロッキング(アクセス遮断)を巡る失態がある。
政府は昨年4月、出版業界からの要請を受け、海賊版漫画サイトをブロッキングするようネット接続事業者(ISP)に求めた。これに対し、憲法で保障された通信の秘密を侵すものだとして強い批判が起きたが、政府は法制化に先行した緊急避難措置であると強弁した。強硬姿勢が裏目に出て、内閣府知財戦略本部が進めたブロッキング法制化は頓挫した。この勇み足を挽回(ばんかい)したい思惑もあって、官邸側が文化庁をせかしているように見える。