大阪地検は郵便不正事件で厚生労働省の局長を逮捕した際、証拠の捏造が発覚し、信頼が失墜しました。その名誉回復の大チャンスだったのです。でも、捜査はうまく進まなかった。幹部の間で秘密主義が徹底され、現場の検事は不満をため込んでいました。籠池氏の自宅を家宅捜索した際には、着手する時間を現場の検事より私たち記者の方が早く知っていたほどです。最後は力関係で東京に押し切られてしまった印象です」

――大阪地検は籠池氏を詐欺容疑で逮捕しました。

「あれは国策捜査だと思っています。問題の本筋は、近財と財務省官僚らの背任です。背任容疑での刑事告発が続々と検察庁に提出されていたころ、大阪府が籠池氏の補助金不正取得の問題を盛んに報道各社に流すようになりました。詐欺事件に注目を集め、背任事件から世間の目をそらす陽動作戦としか思えませんでした。もともと森友学園の小学校設置を認可しようとしていたのに、手のひらを返したわけです。トップの松井一郎府知事は安倍首相に近い。国会で野党からの追及を受ける安倍首相を、大阪府はナイスアシストしたのです。
 何度でも言いますが、森友事件の本質は、国と大阪府の責任です。国有地の大幅値引きや交渉記録の改ざんに、官邸がまったく関与していなかったとは、私にはどうしても思えません。背任の刑事責任を問えなくても、政治的責任や道義的責任はあるはずです。
 この問題には多くの官僚がかかわっています。安倍首相が財務省や近財の職員に直接指示するはずはありません。でも、あうんの呼吸で秘書官に意向を伝えることはできる。そういう意味で安倍首相の関与はあったのか、なかったのか。謎は解明されていません。森友事件は終わっていないのです」

――著書『安倍官邸vs.NHK』では、取材相手の心を開くための具体的な工夫や、情報の裏取りをしっかりしたうえでニュースに出すという報道姿勢にも触れていますね。

「この本には狙いが三つあります。一つは森友事件の本質を伝えること。もう一つはNHK報道の内幕です。でも最大の狙いは、読者のみなさんに記者の仕事を知ってもらうことです。いま、テレビや新聞、雑誌の報道がフェイク(虚偽)だと言われます。プロの記者の仕事が信用されなくなり、むしろ、インターネット上の根拠のない情報のほうが信じられてしまっている。こうなった背景にはメディアの反省すべき点もあります。報道が真実だという説明を十分にしてこなかったと思うんです。本では、情報源は秘匿しつつ、取材手法、手の内を明かしています。31年間、記者を続けてきた人間として、説明責任を果たしたいと考えたのです」

(本誌 亀井洋志)
※週刊朝日オンライン限定