中国のスーパーの豚肉コーナー。「豚コレラ」の影響で豚肉の消費は一時落ち込んだ (撮影/高橋五郎)
中国のスーパーの豚肉コーナー。「豚コレラ」の影響で豚肉の消費は一時落ち込んだ (撮影/高橋五郎)
(週刊朝日 2019年1月4-11日合併号より)
(週刊朝日 2019年1月4-11日合併号より)

 輸入品に高額の関税をかけ合う米国と中国。その影響は中国の畜産家に大きな打撃を与えている。飼料として使われている大豆粕(だいずかす)がほぼ倍の価格まで高騰し、廃業の危機に瀕しているのだ。「大豆ショック」は日本の食卓にも及ぶ。緊迫した現状を愛知大学現代中国学部・高橋五郎教授が解説する。

【図表で見る】中国からの輸入大豆粕価格はこちら

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 米国と中国の対立は、すぐには終わりそうにない。

 トランプ大統領と習近平(シーチンピン)中国国家主席は、主要20カ国・地域(G20)首脳会議があったアルゼンチンで12月1日に会談。貿易問題について90日間以内に交渉することを決めた。

 貿易戦争の「一時停戦」を受けて、輸入再開に向けた動きも報じられている。しかし、トランプ大統領は期限内に交渉がまとまらなければ追加制裁を発動する姿勢だ。交渉の責任者は強硬派で知られるライトハイザー通商代表で、合意の見通しはいまだ立っていない。

 米国の狙いは中国に揺さぶりをかけ、二国間で米国に有利な自由貿易協定(FTA)を結ぶことにある。そうなれば、大豆をはじめとして中国の農業は、ますます弱体化する。仮に中国がアメリカ産大豆の輸入を再開しても、大豆原料業者や養豚業界がすぐに元に戻ることは困難で、一度受けた痛手も簡単にはいえない。

 中国では母豚の生産を始めてから新たな肥育豚を出荷するまで、早くて1年半以上かかる「ピッグ・サイクル」がある。いったん母豚数が減ってしまうと、生産増には時間が必要なのだ。業界専門筋によると、母豚数は9月は8月に比べ0.3%減っていて、いまも下げ止まっていない。

 全体の豚飼養頭数(在庫)も、この3カ月で前年同期より2.3%減った。経営に困って豚を“投げ売り”した結果だとみられる。

 国内での生産が減れば、世界一の豚肉消費国である中国は輸入を増やす。輸入国の間で豚肉の争奪戦となり、当然、国際価格は上がる。日本は豚肉の輸入依存度が高く、影響は避けられない。

 心配はこれにとどまらない。中国からの食品輸入量は、米国に次いで2番目に多い。特に大豆関係は中国に頼るものが目立つ。大豆調製食品の2017年の輸入量90万トンのうち9割、大豆粕輸入量155万トンのうち4割が中国からだ。

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