ゴーン氏は退任後の報酬を記載しなかったことについて「あくまで希望額で、将来の支払額は確定していない」と供述している。公判でも同様の主張をくり返すことになるだろうが、前出の郷原氏はこう語る。
「現実に報酬を受け取っているわけでもない。将来の支払いの合意に過ぎず、犯罪の成立には非常に疑問がある。ゴーンとケリー両氏を罪に問うのなら、同じ代表取締役である西川(広人)社長だけが不問というのは理解できません」

 郷原氏によれば、今回の虚偽記載で罪となるのは「虚偽の記載をすること」ではなく、「虚偽の記載のある報告書を提出すること」。犯罪の主体は有報の提出義務者で、日産の場合は代表取締役CEOだ。西川氏は17年4月からCEOの任にある。虚偽を記入することじたいが犯罪となる政治資金収支報告書の虚偽記載とは、異なるところだという。

「いずれにしても無理筋の逮捕・起訴であり、裁判所は無罪判決を出さざるを得ないのではないか。そうなれば、検事総長の責任問題に発展するかもしれません」(郷原氏)

 一方、町田教授はゴーン氏が報酬を受け取ることが確定していて、意図的に金額などを隠そうとした証拠などがそろっていれば、有罪になる可能性が高いと見る。有報の経営者報酬欄の虚偽記載は株主の重要な判断事項になるからだ。だが、仮に有罪判決が出たとしても、執行猶予がつくことが考えられるから、身柄の拘束に対しては疑問を呈する。

「もし今回、グローバル企業のトップを逮捕しておいて、有報の虚偽記載という形式犯だけで終わってしまったら、大問題になるのではないでしょうか。例えば、日産の株が不当に売買される事態が生じるような緊急性があるとは考えられませんし、証拠もすべて押収済みのはずです。2人とも外国人で国外逃亡の恐れがあると判断したのかもしれませんが、勾留の延長にはやはり疑問が残ります」

 ゴーン氏らは、日産の臨時取締役会で会長職と代表権を解かれたが、いまなお取締役の立場にある。

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