日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(C)朝日新聞社
日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(C)朝日新聞社

 電撃の逮捕から1カ月、検察は行き詰まったのか。

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)は捜査の入り口に過ぎず、あくまで本丸は特別背任―。関係者の多くはそんな予測を立てながら、東京地検特捜部の捜査を見守っていたにちがいない。

 だが、ふたを開けてみれば、12月10日の再逮捕容疑は1回目と同じ金商法違反だった。

 ゴーン氏とグレッグ・ケリー前代表取締役が共謀して、15~17年度の役員報酬を約43億円も有価証券報告書(以下、有報)に過少に記載していたというもの。これで10~17年度の虚偽記載容疑の総額は、90億円を超える。同時に検察は2人を金商法違反の罪で起訴した。

「特別背任などが立件できるのであれば、それで再逮捕していたはずです。最初から材料などなかったのでしょう」
 元特捜検事の郷原信郎弁護士は、そう突き放す。

「最初の5年分と、今回の直近3年分の虚偽記載は実質的に同じ犯罪です。それを分割して逮捕をくり返し、40日間も勾留することは不当な身柄拘束というほかない。国際的な非難に耐えられないと思います」

 ゴーン氏をめぐっては、リオでコンサルタント会社を経営する姉と実体のない業務契約を結び、約10万ドル(約1100万円)を経費から支出したとして、日産側が提訴している。また、海外に高級住宅を会社に買わせて、自宅として使用していた疑惑なども取り沙汰された。

 だが、特別背任や横領などの罪に該当する可能性は低いという。青山学院大大学院会計プロフェッション研究科の町田祥弘教授が指摘する。
「特別背任は大変重い罪ですから、立件のハードルを高くしてあるのです。お姉さんへの支出も金額的に大きいとは言えない。経営者が自分の家族をファミリー企業にあてがって、役員報酬を支払っていたなどという話は不適切ですが、珍しくありません。ゴーン氏を逮捕するのなら、他にも多くの経営者を逮捕すべきだということになるでしょう。海外の高級住宅も会社に損害を与えたとまでは言えず、ゴーン氏の使用実態も調べようがないと思います」

次のページ