本医師は89歳の今も現役だ。東京都心の銀座と丸の内にあるメンズヘルスクリニックで患者を診察している。自宅のある札幌と東京を隔週で行き来。元気のひけつを「男性ホルモンのコントロール」と説明し、70歳から補充を続けているという。

 テストステロンは男らしい筋肉質の体格に欠かせない。冒険心・闘争心・決断力・行動力・積極性・責任感・指導力などにもかかわるホルモンだ。

 減少すれば、やる気が失せて集中力が続かず、判断力や記憶力が鈍る。イライラや不安に襲われる。何事にも関心がなくなる。政治家や芸術家ら自己主張の強い人は一般の人より数値が高い傾向という。

 熊本医師のクリニックには、大手企業の経営者らも訪れる。経営トップは通常の人より男性ホルモン値の高い人が目立つが、ストレスの多い生活などから体調を崩し、ホルモン補充療法を受ける人もいるという。

 ある経営者は熊本医師の診療で元気を回復。「昔みたいに怖い人になった。あまり元気にしすぎないようにしてください」。随行秘書がそんな冗談を言うほど体調が一変した。

 別の経営者は、ゴルフ場でカートを使わず歩いて移動するようになった。プレー後の入浴時、不思議がる仲間に「なぜ元気になったのか」と問い詰められ、「男性ホルモンを補充している」と明かしたという。

 年をとると、心身の様々な衰えを加齢によるものと片づけがち。一方で、それ一辺倒だと、体調の変化を見落とすことになりかねない。熊本医師が特に注意を呼びかけるのは、男の「朝立ち」がなくなることだ。

 これはテストステロン分泌量低下の兆候であるとともに、血管の老化を示す。陰茎の血管は直径1~2ミリメートルと体内で最も細い。動脈硬化は細い血管から始まり、朝立ち消失は動脈硬化リスクの表れという。月経が女性の健康のバロメーターであるように、朝立ちは男性の健康の指標だ。

 年配の男性はテストステロン低下とともに、ストレスへの抵抗力が弱まり、うつ症状が進みやすい。医者にうつと診断され、抗うつ剤を処方されるが、薬を飲んでも症状が良くならないことがある。この場合、テストステロン低下を疑い、泌尿器科など男性向け外来の医師の診察を受けると、改善するケースがある。

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