診療の現場では、採血をして患者のテストステロン値を測り、そのデータや症状に応じて補充療法などを始めるのが一般的だ。正式な病名は「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群=LOH:late‐onset hypogonadism)」と呼ばれる。

 日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会が2007年にまとめた診療の手引きによると、この病気の研究の歴史はまだ浅く、発症のしくみなどもよくわからない。<加齢にともなう一般現象と理解され、医療行政からも顧みられることなく、診療の対象にならなかった>という。

 補充療法も、治療の効果や根拠などのデータ蓄積がまだ十分と言えない。診療の手引きによると、睡眠時無呼吸症候群の患者は症状が悪化するなど、副作用も報告されているという。

 かつての人生50年時代は、生殖のために盛んに分泌される“ホルモン寿命”と、寿命との間に大きな開きがなかった。しかし、今や人生100年時代を迎え、その差は開くばかりだ。

 本医師は「これからの時代は高齢者がいかに元気に生きるかが重要だ」と話す。テストステロンを定期的に測り、健康管理にも生かすべきというのが持論。病気を見つけて治す「疾患医学」から、元気に長生きできる「健康長寿医学」へと軸足を移す必要性を訴える。男性ホルモン補充も、その一つというわけだ。

<生殖医学や女性内分泌学を中心に、女性医療の進歩は男性医療より半世紀は先行している。(中略)ところが男性側は、これからようやく男性内分泌学を中心とした臨床男性医学の基礎固めと、それに基づく医療体系創りが始まったばかりで、なんとも心もとない状況にある>

 前出の手引きの中で、熊本医師はそう述べている。(本誌・浅井秀樹)

※週刊朝日2018年11月23日号より抜粋