歯科に関連する主な学会は40以上あり、研究会も含めると認定医や専門医の数は膨大になり、一般の人が聞いても、内容がわからないような資格も多くあります。

 ホームページでは、広告可能な専門医資格を持っていないにもかかわらず、虚偽の記載をしている歯科医院もあります(各学会のHPで専門医リストに載っているかどうか調べることができます)。

■日本歯周病学会が認定する歯周病専門医になるには

 では、どのようなプロセスを経て専門医を取得するのか、日本歯周病学会が制定している「歯周病専門医」を取得する場合を例に紹介していきましょう。

 まずは専門医の前段階である、認定医を取得する必要があります。認定医試験は学会に所属して3年間、指定された研修の受講など条件をクリアすると受けることができます。試験では、中等度の歯周病患者さんを治療した症例を一つ提示します。このほか40問の試験を受け、合格ラインに達すれば取得できます。

 専門医の試験は認定医を取得後、2年間が経過してからでないと受けることができません。学科試験ではなく、それまで取り組んできた治療の実績を症例として10ケース、提示することが義務づけられています。この10ケースは軽い歯周病ではなく、歯周外科治療や歯周再生医療など重症の歯周病患者さんのケースを半分以上、含まなくてはいけません。

 これはなかなかきびしい条件です。例えば重症の歯周病で歯槽骨がなくなってしまった場合に行われる歯周再生治療は歯槽骨をもとに戻すために行われますが、検査と治療が繰り返される形で数カ月から1年以上かかることもまれではありません。その間も定期的なブラッシングチェックや歯石除去など、歯周病を悪化させない治療を続ける必要があり、きちんとやっても患者さんのからだの状態などにより、思うような成果を得られないこともあります。

 一般歯科では重症の歯周病患者さんはそれほど多くやってきません。短期間で10ケース集めようと思ったら、指導医のいる研修施設で働くのが近道です。

 さらに試験では10ケースから一つを選び、審査員の前で患者さんをどのように治したかをプレゼンテーションしなければなりません。私も数年前から審査員を務めていますが、審査員は熟練した歯周病の専門医(指導医も持っているのが一般的)ばかりです。ちょっとでも不確かな部分や疑問点があれば、きびしい質問が飛んできます。自身がやった治療に自信がなければとても太刀打ちできません。

 逆にいえばこのような試験をすれば、その歯科医師のスキルがたちどころにわかり、専門医の資格を与えられるかどうかの判断は明確につくのです。

 専門医はこのように、一定レベルの技術を担保する資格といえる一方、専門医によっては「簡単に取得できる」とうわさされているものも少なからずあります。専門医の審査基準は学会ごとに違い、きびしめのところは不合格者が多くなり、やさしいところは合格者が多くなる、という理屈です。

 医師の世界ではこうした問題を改善する目的で、2018年から新専門医制度が施行されていますが歯科では今のところ、このような話は出ていません。

 歯科医院を探すにあたっては、専門医はあくまでも一つの参考材料と考えるべきで、患者さんの評判を聞いたり、実際に足を運び、歯科医師からじかに話を聞いたりということが大事であることはいうまでもありません。

◯若林健史(わかばやし・けんじ)/歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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