高齢者のくらしのサポート事業を営む「ケアプロデュース」(東京都)の安藤滉邦代表は「認知症は重度になると、判断能力がなくなる。財産のある人は後見人をつけたほうがよい」と話す。相談者にも、この制度を説明しているという。

 家族らが申し立てると、家庭裁判所から選ばれた法定後見人が、本人の財産を管理する。後見人は財産処分などの契約を代理し、本人に不利益な行為の取り消しもできる強い権限を持つ。

 ただ、この制度は手続きが煩雑で費用もかさむ。管理財産1千万円未満だと毎月の基本報酬が月2万円程度、5千万円超だと5万~6万円。安藤氏によると、書類の準備などの初期費用も30万円ほどかかるという。

 みずほ情報総研は昨年、「認知症の人に対する家族等による預貯金・財産の管理支援に関する調査」をまとめた。回答者のうち成年後見制度の利用者は6%で、「制度を知っているが使うつもりはない」が55%。制度を使わず家族で何とかしようとする実態が浮かび上がった。また、家族が認知症の人の財産管理を支え始めるきっかけは「ATMの操作・利用が困難に」が最も多かった。

 後見人と家族の思いにずれが生じることもある。

 認知症の80代の親を老人ホームに入れるため、ある家族が自宅に近い東京都内で施設を探していた。都内だと費用は高いが、家族が訪れやすい。ただ、親の法定後見人は「都外にもっと安い施設もある」と家族の方針に反対。結局、都外の施設に入ることになった。

 司法書士でつくる「成年後見センター・リーガルサポート」の西川浩之理事は後見人の財産管理について、「安全第一になる」と指摘する。「家族から『親の通帳を見たい』と言われても、後見人はみだりに見せません。親族間の相続争いの前哨戦があると、特に難しい。『親の通帳なのになぜ? 意地悪だ』と言う方もいますが、本人の財産を守るための制度だからです」

 この制度は2000年の導入当初、選ばれた後見人の約9割が親族だった。気心が知れている半面、管理する財産を自分たちのものと混同しやすく、使い込みなども頻発した。今は後見人の7割超が弁護士、司法書士などだ。最近はこうした専門職による不正が後を絶たない。本来は不要なサービスで追加報酬を得たり、不動産売却時に後見人の関連会社を使ったり。認知症マネーは、身内からも第三者からも財産を「うばわれる」リスクにさらされる。

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