先日、『ちびまる子ちゃん』の作者さくらももこさんが亡くなりました。美空ひばりさん(平成元年逝去)もそうでしたが、時代を代表する才能や存在は「何もそこまで“きっちり”しなくても」と言いたくなる駆け抜け方をします。さくらももこさんもまた、平成に無頓着だった私に「平成はここにいたよ」と旗印を付けるかのように逝ってしまった。何よりも、これがある意味『ちびまる子ちゃん』で描かれている家族の未来だという事実がたまらなく辛い。

 さくらももこさんの繊細なシンプルさや、律儀で明快なナンセンスが10代の頃から大好きで、この世の日常は適度な不幸と不条理と不謹慎の中に存在しており、喜怒哀楽には努めてドライな心で臨み、他人を疲れさせない程度の自虐は安らぎと平和をもたらすということを、私は彼女の作品を通して学びました。次の時代になっても、おそらく今以上に正義と正論を押し付け合い、自己主張と自己防衛でギスギスした世の中で、年老いたさくらももこは「こんなババアがいつまでも生きててごめんなさいね」なんて小気味良く言い放つのだろうと信じて疑わずにいたので、なんだかとても心細い。それにしても、SMAPが解散して安室ちゃんと小室さんが引退して、さくらももこさんも。ここへきて、今までぼんやりとしていた平成の輪郭が一気に濃さを深め、そして足早に離れていく感じがしてなりません。

 次はいったいどんな時代を私たちは作り出すのか。薄っぺらな見栄えと横着した充足感ばかりを求めるのではなく、粛々と日々を重ねることの尊さを忘れないためにも、“まるちゃん”にはこれからもずっと“平成っぽい昭和っぽさ”の中で生き続けてもらいたいと願うばかりです。

週刊朝日  2018年9月14日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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