林:そして音楽が松任谷正隆さんなんですね。

中村:そうです。今までの「オセロー」とまったく違いますよ。

林:「ジャジャジャ~ン」とドラが鳴るような、あんな感じじゃないんですか。

中村:違うんです。ポップスっぽい要素もありますしね。彼はスタジオにピアノを持ってきて、僕たちの稽古を見て、「あ、イメージが違った」なんて言って、即興で音楽をつくり直したりしていましたよ。

林:演出が井上尊晶さんという方なんですね。

中村:僕、7年前に蜷川(幸雄)さんの作品で「たいこどんどん」というのをシアターコクーンでやらせていただきました。尊晶さんは蜷川さんのお弟子さんなんです。お稽古してると、いつも蜷川さんが座っていた位置に椅子を置いて、そこに尊晶さんが座っているので、「あ、蜷川さんがいるな」と思うんです。

林:なるほどね。

中村:蜷川さんは尊晶さんに「オセロー」のある演出プランのコピーを渡していらっしゃったんですって。だから蜷川さんがそばにいてくれるんだと思います。

林:今回の舞台は、新訳でなさるんですね。

中村:はい、河合祥一郎さんの訳です。シェイクスピアは歌舞伎に近いところがあるのかなと感じますね。前回、新橋演舞場で「オセロー」を勤めた北大路欣也さんと、このあいだ電話でお話ししたんですが、「ふつうの芝居は歌ってしゃべる(歌うように抑揚をつけてセリフを言う)と現実離れしちゃうけど、シェイクスピアは歌ったほうが現実味を帯びるよ」とおっしゃってましたね。

林:蜷川さんはシェイクスピアの「十二夜」を歌舞伎になさってましたし、確かにやりやすいかもしれないですね。

中村:これは言っていいのかどうかわかりませんが、(北大路)欣也さんがオセローをやって、(十八代目中村)勘三郎の兄貴がイアーゴーをやって、遥くららさんがデズデモーナをやった昭和63年の映像があったので、それを見たら、最近の舞台とは雰囲気が違うな、と思ったんです。歌舞伎だと昭和63年ぐらいじゃ「古い」とは思わないでしょう。そういう意味で、シェイクスピアの作品というのはいまだに進歩し続けていると思うんです。

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