林:そのころは「赤毛もの」と言われてましたもんね。

中村:そういう感じなんです。

林:シェイクスピアって、汲めども汲めどもいろんな要素が出てくるんですよね。

中村:「オセロー」って17世紀はじめ(1602年)の作品でしょう。そのときからずっと語られてるんですもんね。すごいですよ。

林:私、オペラの「オセロ」は大好きでよく見ているんですけど、この作品はいろんな見せ方ができると思うんです。人種差別を前面に出すのか、妻を愛しすぎたための嫉妬を前面に出すのか。描き方によって、ただ単に嫉妬深い、DVの極みみたいにとらえられてしまったら、もったいないですもんね。

中村:でも、嫉妬というのは誰しもが持っている人間の奥底にある感情じゃないですか。歌舞伎俳優は人間を演じてます。まさに嫉妬がエネルギーになるわけです。

林:歌舞伎って親戚同士でやっていらっしゃるから、みんな仲良しなんじゃないですか?

中村:でも、嫉妬のかたまりですよ(笑)。

林:そうなんですか。でもこの時代に「オセロー」を表現するのは、難しいと思いますよ。肌の黒いムーア人が真っ白い肌の美しい女性と結婚しているので、白い肌の人たちが嫉妬するという……。

中村:脚本にも、恐ろしいセリフがたくさんありますよ。「黒いその胸に抱かれるがいい」とか……。

林:歌舞伎にも恐ろしいセリフがある作品、ありますよね。

中村:そうですね。しかも歌舞伎は前衛的ですから、つじつまが合わなくたって平気でしょう?

林:それを「変だな」と思わせないのが、歌舞伎のすごいところですよね。

中村:「オセロー」もそういうところがあるような気がするんです。こんなに勇敢で、いくさ上手のオセローが、旗手のイアーゴーにささやかれたことを、なぜそのまま信じちゃったのかと思いますもんね。

(構成/本誌・直木詩帆)

週刊朝日  2018年9月7日号より抜粋