林:そうなんですか。

玉村:「貧乏だけど楽しい」と言って生き生きしてやっているので、それはうれしいですね。60歳すぎて入ってきて、「古希までに自分のワインをつくるんだ」と言っている人もいるし、みんなすごく元気です。

林:玉村さん、リーダーの理想像ですよね。

玉村:そのつもりはなかったですけど、人の人生をずいぶん変えましたね。「おまえのおかげで俺の人生が狂った」と文句を言ってくる人は、今のところ一人もいないのが幸いです(笑)。

林:私、山梨の出身ですけど、ワインづくりってほんとに難しいと思うんですよ。ワインが好きだから自分でつくりたいと思っても、土づくりから始めなきゃいけないわけでしょう。お金もかかるし。

玉村:そうですね。ITとか金融関係とか、実体がない仕事をやっている人が、自分の手で作業をしてものづくりの実感を得たいという気持ちで来ることもあります。あとは、おいしいワインを飲みすぎて自分の手でつくりたくなっちゃう人も、けっこういるんですよ。お医者さんとかに多いパターンですね。

林:お金持ちが高じちゃって。そういう人、ちゃんと理想のワインをつくれるんですか。

玉村:「できた!」と思うまではいかないかもしれないけど、理想を求めてチャレンジするのが楽しいんですよね。

林:玉村さんのワイン、金賞をおとりになったんでしょう?

玉村:最初のころからコンクールなどでの成績はよくて、日本ワインコンクールの金賞をとったり、洞爺湖サミットで選ばれたり、この前の伊勢志摩サミットでも選ばれたりして。おかげさまで評判はいいんです。

林:畑とワインづくりだけじゃなくて、観光客の方がたくさんいらっしゃるから、そういう面でのストレスはないですか。「写真一緒に」とか「サインお願いします」とか。

玉村:イヤなときはうちに隠れてます(笑)。でも、慣れました。向こうはお客さんだから、こちらが低くなってますよ。レジは失敗するといけないからやりませんが、忙しいときは客席係。「席、こちらです」とか言って。今や僕は物書きの中でいちばん腰の低い物書き(笑)。

林:ストレスもなく。

玉村:ないですね。いろんな人が来ることにも慣れたし、田舎の人間関係は楽しいし、朝起きて山と風景を見るだけで楽しいし。

(構成/本誌・直木詩帆)

週刊朝日 2018年8月10日号より抜粋