林:寄り合いにもお出になって。

玉村:寄り合いはもちろん、「草刈りを朝の5時半からやります」とかいう共同作業はかならず出るようにして、当番はちゃんとやるとか、集会所のトイレの掃除はちゃんとやるとか、そうやっておとなしくしていれば、何となく認められてきます。

林:でも、奥さま素晴らしいですよね。ずっとご主人についてきて、農業も一緒になさったんでしょう?

玉村:僕がついていってるんですよ。最初に「農業をやりたい」と言ったのは彼女ですから。

林:あ、そうなんですか。

玉村:僕は夫唱婦随の反対のほうで、妻が言うことに夫がついてくるというやり方なんです、ずっと。

林:玉村さんに憧れて、定年退職後にそういう暮らしをしたい人、いっぱいいると思うんですが、実際には、なかなかできるものじゃないですよね。畑づくりぐらいはできるかもしれませんが。

玉村:会社勤めの人って、40歳ぐらいになって人生の先行きを考えたり、悩んだりして、達成感のある仕事をしたいと思って実際に次の世界に飛び込むのは、45歳前後なんですよ。そういう僕も、今のところに移住したのは46歳のときですからね。

林:そうですね。

玉村:今、人生100年に近いから、それでも大体半分ぐらいですよ。45歳で転職を決意して、田舎に来て畑を借りて、ブドウの苗を植えて、収穫ができるようになって、もろもろ借金しながら、50代半ばくらいにうまくいけばワイナリーができて、自分のワインをつくり始める……。

林:10年もかかるんですか。10年間耐えるだけの貯金なんてないんじゃないですか。

玉村:持っていた貯金は5年くらいで使い果たして、ブドウができるようになれば売ったり、ワインにしてもらって売ったりしてなんとか食いつなぐ。一生借金生活でもいいからこういう生活をしたいという人が、いま何十人も集まってきてますよ。

林:へーえ、何十人も。

玉村:そのための学校を数年前から始めたんですが、3期終わって卒業生が60人くらいいます。今年また30人くらい入ってきていますから、全部で90人くらいがそれまでのキャリアを捨てて飛び込んできているわけです。すでに独立した人が何人もいますよ。彼らは一生借金生活だけど、途中でやめたりダメになって撤退したりする人は一人もいません。

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