映画で100人出てくるシーンを作るとしたら、どれだけたいへんなことか。でも劇画ならペン1本で、100人でも200人でも、どんなアングルからのシーンでも作れる。こんな素晴らしい表現方法はありません。

 ところが、劇画は、特に昔は「ひとりで描くもの」という固定観念が強かった。映画で言ったら、チャプリンみたいな天才ばかりを探しているようなものです。

 この世界でも手塚治虫先生みたいな天才は出ますが、分業にすればもっともっとたくさんの作品を世に送り出すことができる。それに、絵は描けるけど話が作れない、話は作れるけど絵はうまくない、そんな人がいつの間にか消えていくのをたくさん見てきました。それはもったいないし、天才しかやれないなんていうのは、職業とは言えません。

 私がほかの劇画家仲間と一番違っていたのは、劇画を「職業」として考えていたこと。その意識があったから、劇画で初めて「分業体制」を取り入れました。映画は監督がいて脚本家がいてプロデューサーがいて集団で作っていく。そんなふうに劇画の世界を変えたかったのです。

――昭和35年にさいとう・プロダクションを設立。新しいスタイルでの作品作りをスタートさせた。

 一応、分業化の先鞭はつけられたと思うけど、「まだまだやれたはずだ」という思いもあります。グループ分けして、それぞれで描いていったらすごい数の作品が作れたんだけど。結局、「さいとう・たかをのさいとう・プロ」になってしまった。

 入ってくるスタッフにとって、私はあくまでライバルなんですよね。もっとプロデューサーに徹することができたら、劇画の世界は大きく変わったかもしれない。そこは劇画家人生最大のポカでしたね。

――代表作の『ゴルゴ13』は、今年で連載50周年を迎える。単行本は現在、189巻を数える。

 当初は10話で終わる予定だったので、最終回のストーリーは頭の中でもう決まっています。一時期、最終回のラフが金庫にしまってあるなんてうわさもありましたけど、それはデマです。私の頭の中にしかありません。いつ発表することになるのか、あるいは私が急にどうにかなって、永遠に発表する機会は訪れないのか、さてどうなるんでしょうね。

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