東海道新幹線では、これまでも事件が起きている。

 1993年8月、博多発東京行き「のぞみ」が静岡県掛川市付近を走行中、20代の男が40代の男性をナイフで突き刺して殺害した。2015年6月には、新横浜─小田原間を走行中の「のぞみ」で、男がガソリンをかぶって焼身自殺し、巻き込まれた女性が亡くなった。16年5月、博多発東京行き「のぞみ」が静岡県を走行中、包丁を持った男が巡回中の女性車掌にけがを負わせた。

 新幹線はデッキに防犯カメラがついていたが、JR東海は焼身自殺事件を受けて客室内にも増設した。同社によると、非常ブザーが鳴ると、運転士と車掌が現場のカメラ画像を確認して、運行管理する指令所へ状況を報告し、現場に急行する。

 不審者への抑止効果を期待できるのが、巡回強化。東海道新幹線は運転士1人、車掌2人のほか、巡回や案内、ワゴン販売担当のパーサーが数人いる。警備員や警察官が乗り込んでいることもある。

 関西大学社会安全学部の安部誠治教授は、改札で危険物をチェックできるしくみが必要として、システム開発を急ぐべきだという。

「事故の予防のしくみは講じられて安全になっているが、悪意ある人の攻撃にはほとんど対策がとられてこなかった。鉄道会社などは、車内に凶器を持ち込ませない対策を急ぐ必要がある」

 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏も、警備強化には限界があるとして、「車内に凶器となるものを持ち込ませないことしかない」という。全員への検査でなくても、手荷物検査場を小さく設け、部分的に少しずつ進めるしかないと考える。

 ただ、JR東海は手荷物検査について、現実的でないとの立場だ。

 東海道新幹線は1日約46万6千人が利用する。出発すると全員が目的地まで乗る飛行機と違い、新幹線は途中駅で頻繁に乗り降りがある。手軽に乗り降りできる利便性を損なううえ、在来線と新幹線の乗り換え改札口もあり、手荷物検査をすると乗客があふれて混乱するという。

 石井啓一国土交通相は定例会見で、新幹線は航空機に比べて利用客が多く、改札スペースも限られると指摘し、利便性や運行の定時性を損なわず円滑に実施できるかどうかを慎重に検討する必要がある、と述べた。全員への検査は難しくても、抜き打ちでの実施態勢があれば、凶器の持ち込みへの抑止効果を期待できる、とみる専門家もいる。

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