人と人とのあいだをつなぐホルモンが、オキシトシン。脳の視床下部の「室傍核」でつくられ、血液に乗って全身をめぐる。分泌されると、安らぎや心地よさを感じて自律神経が整う。女性の出産時や授乳時のほか、性交渉、抱擁や愛撫など皮膚への接触で分泌が増えるため、抱擁ホルモンとも言われるという。

「人間同士の触れ合いだけでなく、ペットを育てることでもいいのです。たとえば、犬をなでると、飼い主と目を合わせる。自分の行動に対して反応があり、コミュニケーションできたと思えることが大事です。家族とのだんらんや友人との井戸端会議も、オキシトシンを分泌させます。中高年の男性は、老化とともに頑固になる人がいます。人の話を聞かずにさえぎって話したり、自分の話ばかりになったりする。コミュニケーションが成立しなくなり、危険です」(伊藤教授)

 相手の経験に学び、よさを認めてほめる。喜ぶ反応が相手から返ってくれば、共感の輪が広がる。脳の活性化にもつながる好循環が生まれる。共感脳を“鍛えて”オキシトシンを増やすことは、幸せ寿命を延ばす一歩だ。

 ドーパミンと呼ばれるホルモンも幸福のカギを握る。分泌されると楽しさが感じられ、やる気や集中力、生産性が高まる。分泌されないと、無気力になる。

 ドーパミンは、男女の間柄だと恋人になった当初に多く分泌される。相手を独占したいという激しい思いを巻き起こす。その後、夫婦となれば、互いにいたわって慈しむ関係になる。信頼の深い絆で結ばれるのは、オキシトシンの力だ。

 未知のもの、美しいもの、おいしいものに心躍らせる。そんなときめき脳を保つことも、幸せ寿命を延ばすために大切なことだ。

 伊藤教授は「“面倒臭い”という言葉を口にするようになると、要注意です。いつまでも新しいことにチャレンジすれば、生活にハリが出ます。好奇心を失わないため、定期的に旅行に行ったり、いつまでも異性にときめいたりするのもよいことです」と話す。

 幸せを感じることを繰り返すと、幸せを感じやすい脳の“体質”がつくられる可能性がある。そんな研究結果も報告されているという。幸せを感じる神経の電気活動量が多くなれば、大脳の神経の重さも大きくなる。幸せを感じる閾値が下がり、感受性が高まる、というわけだ。伊藤教授は著書『幸福寿命』でこう指摘する。

〈「幸福」を感じることに、トレーニング効果があるかもしれないのです。「過去」において「幸福」と感じることを積み重ねると、「未来」に、より頻回に、そして大きな「幸福」感を得ることができるのです。「過去、そして、今、幸せ!」と思うことが将来の「幸せ」をつかむことにつながるのです〉

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