スーパー台風が直撃する確率は低いので、こうした懸念は「取り越し苦労」だと感じる人もいるだろう。しかし、地球温暖化の影響もあって海水温が上昇し、かつてないような台風が発生する恐れが指摘されている。三舩さんも「スーパー台風はいつ来てもおかしくない。今から準備し、想定外をつくらないことが重要だ」と訴える。

 都はこれまで防潮堤などハード面を中心に整備してきたが、その基準を上回る台風がやってくる可能性はゼロではない。今後は避難計画など、ソフト面の対策を進めていく。

 高潮の被害は台風の進路予想などをもとに、ある程度事前に察知することができる。墨田、江東、足立、葛飾、江戸川の5区は「江東5区大規模水害対策協議会」を15年に設置。5区共同で広域避難勧告を出し、台風が直撃する前に早めの避難を促す。今年8月には今回のシミュレーションを踏まえて、ハザードマップや避難計画などをまとめる予定だ。

 ただ、避難といっても、実施にはいくつもの壁がある。

 5区の想定では、大規模台風で荒川が決壊した場合、約250万人が影響を受け、100万人以上が広域避難すると想定している。これほどの大人数を短時間でどこに移送するのか。具体的な受け入れ先や交通手段は決まっていない。寝たきりの人や一人暮らしの高齢者もいる。

 住民の防災意識も十分には高まっていない。江戸川区防災危機管理課の担当者はこう漏らす。

「計画的に避難し犠牲者をゼロにするのが理想だが、アンケートでは『学校や会社が休みにならないと避難できない』という声がある。都や国と一緒に対策を練っていく必要があります」

 被害を最小限に抑えるには、地震や高潮に限らず早めの準備が大事だ。揺れを感じてから、水が迫ってきてから後悔しても遅い。

 地震に弱い建物や高潮の被害を知っておけば、防災意識も高まる。自宅や勤務先、通勤コースなど、どこにどんなリスクがあるのか把握しておきたい。避難経路を確認し、防災グッズを用意しておくだけでも、いざという時に役立つはずだ。(本誌・吉崎洋夫、多田敏男)

週刊朝日  2018年5月25日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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