4月には東京、大阪、名古屋でのツアーを予定している優河(撮影/廣田達也)
4月には東京、大阪、名古屋でのツアーを予定している優河(撮影/廣田達也)
シンガー・ソングライター、優河の新譜『魔法』
シンガー・ソングライター、優河の新譜『魔法』

 聴く者の耳を捉えて離さない神秘的な歌声と端正なファルセット。シンガー・ソングライター、優河の新譜『魔法』が話題を呼んでいる。

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 優河の名を知らないという人も、妹の女優、石橋静河とともに出演したCMやそのナレーションに見覚え、聞き覚えがあるはずだ。石橋凌と原田美枝子の娘である。

 優河は1992年、東京の生まれ。高校時代に音楽に興味を持ち、ガールズ・バンドの一員となって歌い始めた。彼女の歌を聴いた原田美枝子の勧めで、ヴォイス・トレーニングに通い、その教師の紹介でライヴハウスのショー・ケースに出演。ミニ・アルバム『Elegant』を出した。

 本格的な音楽活動をするにあたり、様々な音楽を吸収しようと、ライヴハウスで4年余り、アルバイトをした。その間に見聞きした音楽やミュージシャンたちとの交流が、現在の活動の下地になったという。同時期に音楽の専門学校に通い、作詞作曲、音楽制作やギターを学んだ。

 専門学校ではユーフォニアム奏者のゴンドウトモヒコの指導を受けた。課題として自作した曲が学校で評価されたのを機に、2015年にはゴンドウの制作によるデビュー・アルバム『Tabiji』を出した。

『Tabiji』の冒頭を飾る「青の国」が、彼女の存在を強く印象づけた。敬虔な聖歌を思わせる曲をアカペラで歌う。その声は聴く者の心を揺さぶり、一瞬にしてライヴハウスの空気を変えてしまうと評判になった。ゴンドウの編曲による多彩な音楽展開をバックにした「舟の上の約束」「旅路」など他の収録曲でも、よどみのない、まっすぐな歌唱を聴かせてくれる。

 おおはた雄一との共演のミニ・アルバム『街灯りの夢』(17年)をはさみ、2年ぶりに発表した2作目のフル・アルバムが『魔法』だ。

 優河は大きく変わった。彼女のギターの弾き語りを主体に、歌唱や曲に寄り添う伴奏が配されていたこれまでの作品と異なり、『魔法』では彼女の歌、演奏との一体感が際立っている。

 収録曲の大半はスロー・テンポで、空間=スペースを意識した音数の少ないバンド・サウンドや、ハルモニウム、ピアノ演奏だけの曲もある。アンビエントな要素も採り入れられ、簡潔かつ大胆なものだ。

 彼女の音楽志向を反映させるうえで貢献したのが、ベース、シンセサイザー奏者の千葉広樹だ。優河とともに2曲、単独で3曲の編曲を手がけ、共同制作者としてクレジットされている。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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アルバムのテーマは“別れ”