引きこもり、死…廃校寸前の野球部が“強豪”になるまでの5年 (1/6) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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引きこもり、死…廃校寸前の野球部が“強豪”になるまでの5年

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出陣式にて。父母会から受け取った必勝の千羽鶴。中央には「恩」の一文字が浮かぶ

出陣式にて。父母会から受け取った必勝の千羽鶴。中央には「恩」の一文字が浮かぶ

試合前にノックを受ける川合

試合前にノックを受ける川合

女子マネージャー大塚茜。ノッカーもこなし、キャッチャーフライもお手の物

女子マネージャー大塚茜。ノッカーもこなし、キャッチャーフライもお手の物

2017年、夏の地方大会スタート。試合前のアップ

2017年、夏の地方大会スタート。試合前のアップ

 名指導者・石山建一に魅せられ、山村留学生として各地から野球少年が集まってきた埼玉県立小鹿野高校。万年1回戦コールド負けのチームが「5年かかる」と明言した石山に導かれるように、メキメキと頭角を現してきた。同校のベンチに飾られる千羽鶴の「恩」の一文字に見守られるかのように……。小鹿野高校野球部が強くなったきっかけは、“小鹿野高校の廃校阻止と町おこし”だ。ノンフィクション作家の黒井克行氏が、これまでの5年間をリポート。前編では石山就任までの経緯を伝えたが、後編では初試合からいままでの軌跡を描く。

【写真】キャプテンの川合や女子マネなど、写真の続きはこちら

*  *  *
「ヨシッ、勝つぞ!」

 斉藤友一監督は対浦和学院(以下、浦学)戦を前にして半ばハッタリ交じりに選手に発破をかけた。

「わずか3カ月余りだが、石山(建一)さんの指導で打球の飛距離もスピードも格段の進歩だ。選手は練習をやればやるだけうまくなっているのが実感できる」

 とはいえ、浦学は春の選抜大会に出場した名実ともに県を代表する強豪校だ。おそらく小鹿野高校など眼中になく、さっさとコールド勝ちして余力を十分に残したまま次の試合に備えようと考えているはずだ。ところが、斉藤の発破はまんざらでもなかった。

 一回表、先攻の小鹿野は先頭打者がいきなり出塁した。得点のチャンスだが浦学はそう簡単には許さないだろう。次は手堅くバントで送り、クリーンアップでまずは先取点を狙いにいくところだ。しかし、バッターは浦学のバントシフトをあざ笑うかのように送る構えを見せるどころかヒッティングに出た。セカンドゴロながらランナーを得点圏に進めた。

「右打ちだって練習してきたんだ。ここでバントなんかしたら石山さんに怒られちゃうよ」(斉藤)

 自信満々で臨んだ浦学だったろうが、いきなりのふてぶてしい小鹿野の強攻姿勢に浮足立った。だが、すぐに目を覚ました浦学は後続を抑え、その後は本来の実力の差を見せつけ、結局6対0で小鹿野を退けた。しかし、浦学はコールドどころか九回まで小鹿野に粘られたのである。浦学にしてみれば決して会心の試合ではなかったはずだ。一方、地元テレビ埼玉で初めて中継されたわが町の高校球児に釘付けになった小鹿野町民は、「大したもんだよ。浦学相手に九回まで戦ったんだ」と、まるで優勝でもしたかのような盛り上がりで、野球部の“大健闘”をたたえた。

「長い間野球をやっているが、コールドされずに褒められたのは初めてだ」(石山)

 この試合で斉藤監督はあの風紀委員長を八回のマウンドに上げていた。彼は1回を3人で抑え、自身の高校野球を有終の美で終えることができた。


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