この装置は、広い地層から地下水をくみ上げる2~3本の井戸を持つ。最近は地下100~200メートルからくみ上げ、1回転する間に約3千トンを撒く。農産物を栽培する4カ月間で1基が撒く地下水は4万8千トン。これに化学肥料、除草剤、殺虫剤を流し込んで散水するため、土壌は劣化し、残留農薬も懸念される。

 両県一帯には数千基の円形農場がある。地下水の枯渇は早く、調査したところでは、円形農場の約半数が機能不全に陥り、さびついた散水装置もろとも放置されていた。多くは新設後10年ほどで寿命を迎えている。

 こんな状態で大丈夫なのか。地元農民たちに話を聞くと、「散水装置のローン、地代、肥料や農薬などにかかるコストが高いのに作物の出荷価格は安く、採算が合わない」(61歳男性)、「円形農場の経営はみな楽じゃない。水が減り、収量も限界に来ている」(63歳男性)などと不安を口にした。調査の中で、「最近、近くの湖の水が減っている」という証言が耳に残った。それがきっかけで、チャガンノール湖の捜索に臨んだのだった。

 すっかり干上がり、荒涼とした湖の跡。ひび割れた地表に立って考えた。

「限界地農業を北方に押し上げようとする施策は成功したのか。むしろ農業大国としての中国が衰亡する危機の前ぶれなのではないのか」

 もちろん、日本はその影響をもろに受ける。いや、すでに受けている──。

 日本にとって、中国は米国に次ぐ食料輸入国。3大品目は冷凍野菜、鶏肉調製品、大豆油粕だが、食卓に欠かせないネギ、ブロッコリー、ゴボウ、ニンニク、サトイモ、キャベツ、シイタケ、サヤエンドウ、ニンジン、ショウガなども最大の輸入国になっている。

 だが今、こうした作物の中国からの輸入量は軒並み減少している。

 日本はこれまで、鶏肉や野菜・果物を原料とする加工食品、果物の缶詰に至るまで、多くを依存してきた。小売店で中国産が目玉商品になっていた06年には、野菜とその加工食品の輸入量は208万トンだったが、16年には168万トンまで減少(財務省「貿易統計」)。農産物全体の輸入総額は15年の8100億円から、16年には7100億円まで急落している(農水省「農林水産物輸出入情報」)。

 そのあおりを受け、野菜の国内卸売価格が中長期に上昇していることが卸売市場統計から確認できる。12年と16年の東京都中央卸売市場価格を比較すると、ニンニクが2倍以上に高騰するなど、いずれも高くなっている。卸売価格には国内産も含まれるが、安い中国産の入荷量が減ったことで需給が逼迫し、価格上昇を招いたと考えられる。

 中国からの農産物の輸入は今後も減る見込みだ。このまま農業が疲弊を続けていくと、輸入がゼロになる日が来てもおかしくない──そう警告せざるをえないほど事態は深刻である。

週刊朝日 2018年3月2日号より抜粋