壊れた散水装置を調べる高橋五郎・愛知大国際中国学研究センター所長(朝日新聞・益満雄一郎撮影)(c)朝日新聞社
壊れた散水装置を調べる高橋五郎・愛知大国際中国学研究センター所長(朝日新聞・益満雄一郎撮影)(c)朝日新聞社
中国からの農産物輸入量の減少率(左)と東京都中央卸売市場価格(右)(週刊朝日 2018年3月2日号より)
中国からの農産物輸入量の減少率(左)と東京都中央卸売市場価格(右)(週刊朝日 2018年3月2日号より)

 大豆の自給率が94%から13%にまで落ち込むなど、急速な衰退をみせる中国農業。野菜・果物に関してはすでに輸入量が輸出量を超えた。世界の穀物生産量の20%以上を占めるとあって、その影響は世界にまで広がる。そんななか、愛知大学国際中国学研究センター所長・高橋五郎氏は中国・内モンゴル自治区の「チャガンノール湖」を視察。「鳥の楽園」とまで言われた湖は干上がっている惨状。中国農業は大丈夫なのか。

【日本にも影響が?<中国からの農産物輸入量の減少率>はこちら】

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 中国政府もただ座視しているわけではない。2000年代以降、農業生産地帯の見直し・経営の近代化などの構造的改革に着手した。

 その対策の一つが、これまで不可能とされてきた条件不利地域での広大な農地開発だ。牧草をはむ羊や馬の姿しか想像できず、“農業限界地”と言われた内モンゴル、寧夏、新疆、河北省西北部など北方へ農地を移す政策が進められている。

 その現状を探る目的で、私は17年の8、9、11月に計3度、内モンゴル自治区商都県や河北省尚義県の一帯を訪ねた。小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、砂糖大根、ヒマワリ、カボチャ、大豆、白菜などの生産地だ。

 標高は1200~1500メートル。年間降水量は200~400ミリ。日本で雨の少ない香川県でも年1千ミリ程度なので、かなり乾燥している。真冬の気温はマイナス30~40度まで下がる。灌漑ため池や河川はなく、地下には「間隙水」と呼ばれる条件不利水(低位ほど塩害のリスクが大きい)がある。農業適地とはいいがたい場所だ。

 最初の調査は17年8月初旬。この地方特有の円形地下水灌漑農場を調べた。米国発の農地開発方式で、1基の面積は約50ヘクタールに及ぶ。筆者が初めてこれを見たのは10年前の寧夏だった。いまは新疆、寧夏、甘粛、内モンゴル、河北に及ぶ広大な地域に分布する。グーグルアースで数えると、全部で約5千基にのぼった。

 円形農場には可動式散水装置があり、くみ上げた地下水を噴水散布する。恐竜の背骨か鉄橋のトラスのような形をし、長さは400~500メートル。約2メートル間隔で噴水用のホース付きノズルがぶら下がっている。長く重い装置の回転を支えるため、約50メートル間隔で直径1メートルほどのトラクター用タイヤがついている。電力で16~20時間かけて円形の農場を一周する。

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