著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は、政治学者・姜尚中さんの「おでん 志乃ぶ」の「おでん」だ。
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最初に志乃ぶに来たのは30年以上前、早稲田大学に通っていた頃です。学校が近くだったので友人と飲みに来たり、ゼミの担当教授を囲む会をしたりと青春の思い出がつまった店で、今でもふと訪れることがあります。
もともとおでんは大好きですが、ここの出汁は絶品です。あっさりと、しかし滋味に富んだやさしい口あたりで、具材を品よく引き立てます。とりわけ大根、がんも、たまごはうまみが凝縮されていて、こたえられません。最後は出汁も飲み干します。
おでんと枡酒の相性も抜群で、ついお酒がすすみます。じつは私が人生で初めて酔っ払ったのもこの店でした。泥酔して、今は亡き親友と高田馬場まで走って競争した覚えがあります(笑)。ここに来ると、そんな若かりし日の記憶がよみがえります。
当時は先代の「おかあさん」がいて、とてもよくしてくれました。今は代替わりしていますが、店内は昔と変わらず昭和の面影を残しています。志乃ぶでの心安らぐひとときは、私にとってかけがえのない時間です。
「おでん 志乃ぶ」東京都新宿区西早稲田1-19-17/営業時間:17:00~22:00/定休日:日・祝
(取材・文/佐藤裕美)
※週刊朝日 2018年2月16日号