小林:そうですか。あの映画、僕は自分が出演するなんて思っていなかったんです。映画の配役が決まる前に健さんが「おい稔侍、これ読んでおけ」って原作本を渡すわけです。僕はそのとき2時間もののドラマが控えてましたから、自分に関係ない映画の原作を読む余裕なんてない。だから車の後ろにポンと放っておいた。健さんはメシ食いに行くとき必ず僕の車に乗るから、そのときはサッと帽子で隠したりして(笑)。でも、僕があの役(高倉健さんと同期の親友役)になっちゃったんです。

林:そうだったんですか。

小林:プロデューサーがいろんな俳優の名前を挙げても、健さんは返事をしなかったんです。黙ってるっていうことはダメなのかなと思って、プロデューサーは他の名前を挙げるんです。もうさすがに決めなくちゃという段階になって、「稔侍はいいものを持ってるぞ」ってひとこと言ったらしいんですよ。それで僕に決まったんです。最初からそれを言えば、みんな苦労しなくてすむのに、そういう人なんですよね。でもね、なんで健さんは、そんなこと言ったのかなと思ってね。僕は健さんの相手役をやれるほどの俳優でもないし、あの人は人にモノを頼むのがいちばん嫌いなんですよ。50年ちょっと、ほとんど毎晩一緒にメシを食ってたんだけど、あの人が僕に頼みごとをしたのはただ一度だけなんです。

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