経済ジャーナリストの荻原博子さんは、細かい計算よりも、65歳以降は生活スタイルをガラッと変えればお金はかからないという。

「夫婦で20万円程度の年金がもらえるのなら、生活費はその範囲内で賄えばいい。年金に合わせた生活です。会社に行く必要がないから背広は必要ないし、夫婦2人だと食費もそんなにかかりません。これからは年金が減るといいますが、年を取れば消費する金額も少なくなっていきます」

 生活費を年金で賄えるとすると、準備しておくべきお金は、「介護」と「医療」を考えればいいという。先の生命保険文化センターの調査によると、一人の介護に実際にかかった費用は「約550万円」。医療費は高額療養費制度があるため、70歳を過ぎた一般所得者の世帯では、どんなに医療費がかかっても負担は月額「5万7600円」で済む。

「すると、介護は2人で550万円×2=1100万円。医療費はざっくり200万~300万円をみておけばいいでしょう。これに100万円余裕を持たせたとして、1500万円あれば最低限の準備はできます」(荻原さん)

 1500万円は、住宅ローンの返済と教育費の負担が終わっていれば、その分を貯蓄に回すことで50代の10年でためられるという。

 総務省の「家計調査年報」(2016年)を見れば、高齢世帯の収入や支出の全国平均がわかる。

 それによると、高齢夫婦無職世帯の月々の実収入は「21万2835円」で、うち年金は「19万3051円」だ。ここから税金と社会保険料が引かれ、可処分所得は「18万2980円」となる。

 一方、支出を見ると消費支出が「23万7691円」だ。主な支出は、食料(27.3%)、交際費(12.2%)、教養娯楽(11.1%)、交通・通信(10.6%)の四つ。現在のシニア世帯の旺盛な活動ぶりがここからもうかがえるが、この消費支出と可処分所得との差額、「5万4711円」が月々の貯蓄取り崩し額となる。

 年間の取り崩し額は「5万4711円×12=65万6532円」になる。90歳のゴールまでだと「約1640万円」、95歳までだと「約1970万円」の貯蓄が必要になる計算だ。全国平均でさえ、寿命が延びれば「2千万円」が視野に入ってくる。

週刊朝日 2017年12月1日号より抜粋