――高座で「認知症ですから」と観客を笑わせる円丈さん。しかし、ギャグではなく老いを実感している。

夫:物覚えに関しては近ごろ、どうもおかしい。それで、高座は見台に台本を広げてやっていますが、一瞬どこまでやったのかわからなくなることがある。「認知症ですからね」と言うと、お客さんがドッと笑う。いよいよダメだとなったら堂々と書いたものを読む。すると、また笑いが起きる。ギャグでもなんでもないんだけど。病院で調べてもらったら、認知症の入り口にいるそうなんです。最近は「まだ認知症ではないんですが、医者から認知症同然なんだと言われまして、いまは崖の上にいるんです」と言ってはじめています。

――妻は無口で、慮(おもんばか)った夫は、ついつい妻の分までしゃべりすぎてしまう。

夫:カミサンは病院に行くときはいつもついてきてくれるんで心強いんですよ。でもご覧のとおり、あまりしゃべんない。山形のひとですからね。

妻:口下手だから。

夫:僕は狛犬(こまいぬ)を見に行くのが趣味で、昔はカミサンがクルマを運転して一緒に四国の神社を回ったんですが、2年くらいしたら、「もう、ひとりで行って」と言うんですよ。

妻:四国の神社は、細い道が多いんですよね。すれ違うのも大変で、怖いのに、隣で「アッチ、コッチ」と言うものだから。

夫:カミサンは物見遊山が好きなんですが、僕はね、これはいつごろに作られた狛犬なのかといったことを調べるのが好き。いわゆる観光には興味がない。紅葉の季節だからって、モミジの天ぷらなんか食ってどうするんだと、つい口にしちゃう。

妻:ひとりで狛犬を見に出かけるようになって。

夫:カミサンは妹たちとあちこち出かけるようになった。このひと、生まれは会津で、8人姉妹で、全員女なんですよね。

妻:四女なんです。

――二人の出会いは文通欄だ。妻は当時を思い起こし、今でも照れる。

夫:当時は文通がはやっていたんですよ。噺家ですからね、頭を使う。どうやったら返事がいっぱい来るか。ある雑誌に「○○とラッキョウが嫌いな人、お手紙ください」と書いたんです。○○のほうは忘れましたが、ラッキョウがよくて、20通近く返事が来た。その中のひとりが、こちらのお嬢さんだった(笑)。

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