リズミックなギターや、ギターの弦を荒々しくかきむしるように奏で、弦やボディーをたたきつけるパーカッシヴなギター・スタイルは独自に編み出したものだが、琵琶の奏法からヒントを得たところもあった。

 生ギターにマイクを装着し、ハード・ロックのギタリストさながらにフル・ヴォリュームでハウリング効果をもたらす手法もデビュー前から実践していた。ギターの弦の共鳴音を生かした奏法はラヴィ・シャンカールらインド音楽からの影響だった。

 そればかりか、高校時代に出合ったという越天楽など雅楽、ディランに傾倒する前に親しんでいた歌謡曲、ことに三橋美智也、さらにはクラシックにも興味を持っていた。

 そうしたすべてが遠藤賢司の音楽性の基盤だった。

 69年2月のデビュー・シングル「ほんとだよ/が眠ってる」は不発に終わった。『niyago』の制作に向け、彼の頭の中には選曲、編曲などのヴィジョンがあり、その具体化をサポートするのが私の役割だった。

 URCの録音の慣例を破り、エンジニアとしてラジオ関西の技術担当者を起用したり、細野晴臣、松本隆、鈴木茂というはっぴいえんどの3人を参加させたりしたのも、彼の要望によるものだった。

 もともとスローなブギ・タイプの曲だった「夜汽車のブルース」は、はっぴいえんどの3人によってアップテンポのブルース・ロック・スタイルに改められた。夜汽車の疾走感を醸し出し、遠藤の歌唱もワイルドになった。暗闇に潜むものへの恐れ、暗闇から抜け出したい願望とその後に訪れるものへの期待が描かれ、先行きの見えない未来への不安を物語ってもいる。

 はっぴいえんどとのセッションである「君がほしい」は、交わす会話での不信から心は通じ合わないものの、傍らにいるというだけで体を求めたいという願望を描いた。遠藤の求愛の歌に潜むエロティシズムが顕著な曲でもある。

「雨あがりのビル街(僕は待ちすぎてとても疲れてしまった)」は遠藤が生んだ名曲のひとつだ。遠藤が奏でるシタール風のギターのイントロ、はっぴいえんどの3人の演奏のクールなたたずまい、街角で人を待ち続ける主人公の心情を表現した遠藤の切々とした歌唱が印象深い。この曲は大瀧詠一に評価され、オリジナルを主体としていたはっぴいえんどが唯一カバーした作品となった。

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