「戦時下という苛烈な状況に置かれながらも、ひたむきに生きる姿に、『国は違っても、みんな同じ人間なんだ』というメッセージが込められている気がします。ただ、役者というのは、役を通して演出家の信念を届けるメッセンジャーに過ぎないと思うので、長く役者を続けてきたからといって、自分の引き出しの中に、どれだけの物が詰まっているかはわかりません(苦笑)。いくつもの作品に携わってこられたのは、自分の中に特別な力があったからじゃない。すべて脚本、演出家、共演者、スタッフのお陰だと思っています」

「謙虚ですね」と言うと、「頑固なんです」と返された。

「よく言えば真面目というか、自分に対して頑ななんです。妥協ができない。でも、人に対しては優しいの(笑)。今回の役も、苦しんでいるけれど、私にはそれも、“好きな苦しみ”かもしれない。作品を作り上げるときの緊張、ひとさまの前に立つ緊張。それは、普通の生活をしていたら味わえないぞ、って思うから。よく、『馬子にも衣装』っていうけど、私にとっては『馬子にも緊張』ね(笑)。常に心地よい緊張感があるから、何とか舞台に立てているんです」

 ただ一つ、特に実在の人物を演じるときは、人間として、女として、素敵に見えるよう心がけている。どんなに弱さや嫌らしさがあっても、最終的には、その人の幹の太いところを表現したいと思う。

「最近は、年齢を重ねる幸福を実感するようになりました。緊張を楽しめるようになったことも含めて、重い荷物を肩から一つひとつ下ろして、軽くなっている感じはありますね」(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2017年11月17日号