スーパーの食品売り場。物価の上昇に見合うほど給料が増えないので個人の財布のひもは固い
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アベノミクス後の経済指標の変化(週刊朝日 2017年11月3日号より)
アベノミクス後の経済指標の変化(週刊朝日 2017年11月3日号より)

 日経平均株価は10月20日、2万1457円と21年ぶりの高値となった。安倍政権発足直後は1万230円だったから、株価は2倍以上になっている。

【図】アベノミクス後の経済指標の変化

 実はこの株価は、実体が伴わずに「政府が作り出したもの」と言っていい。公的資金によって買い支えられているからだ。

 巨額の公的年金資産を抱える「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が、運用方針を見直して株を買い増した。「通貨の番人」のはずの日本銀行も、上場投資信託(ETF)を通じて株を買っている。ある経済評論家はこうした「公的資金」による買いがなければ、「現在の日経平均株価は1万2千円を割る水準にとどまっている」と警告する。

 安倍政権の意向を受けて株価を引き上げている日銀に対しては、中央銀行の役割を逸脱しているとの批判が強い。こうした意見をものともせず、日銀は国債や株を市場から大量に買う「異次元」の金融緩和を続けているが、徐々に追い詰められている。財務の健全性が悪化するリスクが高まってきたためだ。

 日本総合研究所の湯元健治副理事長は、高い価格で無理に国債を買っていることが問題だと指摘する。

「日銀は異次元の緩和策にあたって、国債を市場から額面よりも高く買い上げています。保有する国債のうち満期が来たものを償還する際には必ず、額面と購入額の間に差損が発生します。その規模が、そろそろ限界に近づいているのです」

 この国債の差損の規模は、すでに総額10兆円に達したとの見方がある。日銀の自己資本は約8兆円。差損が一気に表面化すれば債務超過に陥り、中央銀行としての健全性が保てなくなる。さらに今後、日銀が政策金利を引き上げようとすると、保有する国債の平均利回りが低いため、新たな損失が生じる恐れもある。湯元氏が試算したところ、日銀がいま政策金利を1%に引き上げると、「逆ざや」によって約20兆円の損失が生じる。

「日銀は毎年、利益の一定割合を国庫に納めています。しかし差損が生じた分、利益が目減りして納める額も減る。もし債務超過にでも陥れば、国が税金で資本注入する必要もある。異次元の緩和策の代償として、国民負担が生じる可能性も想定しなければいけません」(湯元氏)

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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