ともに日本のフィギュア界に君臨してきたバンクーバー五輪銅メダリストの高橋大輔は、

「僕は『浅田真央』のスケートが大好きですし、また一緒に氷上でスケートをできることを楽しみにしています」

 と、引退しても真央のスケートが見たいとコメントした。

 海外からもエールは続々と届いた。カザフスタンの英雄、デニス・テンは、

「スポーツ選手なら、いつかは幕を閉じる時がくる。フィギュアスケートの外には世界が広がっている。これからの人生に幸あれ」

 バンクーバー五輪当時コーチだったタチアナ・タラソワ氏は、ロシアの国営通信社でのインタビューで、

「何度も頂点を極めた、並外れた、偉大なアスリート。すべてのものに始まりと終わりがある。真央のベストを祈る。彼女の人生は今始まったばかりだから」

 現在のハイレベルな闘いにも触れた。

「真央は正しい決断をしたと思う。彼女が今、トップに戻るのは困難すぎる」

 女子フィギュアの世界は、ロシア選手のパワーがすごい。世界ランキング1位のエフゲニア・メドベジェワは、昨年、真央が持つショート世界記録(当時78.66点)を、0.55点上回った。メドベジェワは日本のアニメ好きで知られるが、真央のことも好きだという。

 先日引退を発表したばかりのエフゲニー・プルシェンコも、「真央は偉大なスケーター」と言ってはばからなかった。

 真央に押されて成長した選手も多い。06年のトリノ五輪金メダリストで日本スケート連盟副会長の荒川静香は、

「真央がスケート業界に与えた影響は大きい」

 と認めている。

 記者が忘れられないのは、08年にスウェーデンのイエーテボリで開催された世界選手権のフリー演技だ。

 冒頭で氷の溝にひっかかり激しく転倒。勢い余ってリンクの壁にぶつかった。おそらく全身を強打していただろうが、真央は負けなかった。すぐに立ち上がり、その後のジャンプをすべて成功させ、逆転で世界選手権初優勝を果たした。

 演技後に得点発表を見守る席である「キス・アンド・クライ」で顔をゆがめて泣く姿は珍しく、記者も思わずもらい泣きした。あの時の試合は、その後のスケート人生を物語っていたように思う。転んでも立ち上がり挑戦する。その先にはちゃんと成功の神様が待っている。

 フィギュアは孤独なスポーツだ。リンクに上がれば一人きり。真央はずっと、リンクの上でひとり自分自身と闘ってきた。引退は寂しいが、いつかこの日が来ることはわかっていた。

 もう十分だろう。ありがとう、真央ちゃん。

週刊朝日 2017年4月28日号より抜粋