ミッツ・マングローブ「かわいいだけならロボットはいらない」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ミッツ・マングローブ「かわいいだけならロボットはいらない」

連載「アイドルを性せ!」

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「我が国日本、特に女性目線の日常は、7割が『かわいい』で構築されています」 (※写真はイメージ)

「我が国日本、特に女性目線の日常は、7割が『かわいい』で構築されています」 (※写真はイメージ)

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「かわいい」に代表される「女性的感覚の優遇」を取り上げる。

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 先週は『さかなクン』を頂点とした『くん付け男子』の清廉性について書きました。さかなクンの偉大さは変わらないものの、もうひとり絶対に外せない存在をすっかり忘れていました。『ペッパーくん』です。正式には『Pepper』だそうですが、なぜか『くん付け』が当たり前となっているペッパーくん。歳を取らない永遠の少年性と、充電が切れない限り何があっても決して裏切らない従順性。白く滑らかなボディーは純白・潔白の表れでしょうか。まさに『くん付けファンタジー』を追い求める世間のエゴが凝縮されています。

 我が国日本、特に女性目線の日常は、7割が『かわいい』で構築されています。老若男女隔てなく「かわいい」と言うことが、健全な社会との関わり方と言ってもいいぐらい。ましてや昼間のテレビに出てお金を頂いている身としては、一日に3回は「かわいい」を声に出す努力をしている次第です。本来、私にとっての「かわいい」は、V6の三宅健並みの男子を見つけた時か、デビュー当時の宮沢りえか桜田淳子を鑑賞する時ぐらいにしか使いたくない特別な言葉なのですが、少しでも琴線に触れる靴や鞄が目に留まったら、赤ちゃん・犬・猫の類が視界に入ったら、小振りでカラフルな食べ物や雑貨が画面に映ったら、とりあえず「かわいい」と大声で言ってみるようにしています。これは世間様に対するお務めです。

『女性が輝ける時代』なんてテーマが無闇やたらと謳われる昨今、たまに「いったい女性はどこまで輝けば気が済むのだろうか?」と思うことがあります。根強く蔓延(はびこ)る男社会において、女性の習慣・感情・生理といったものに細かく配慮しなければ何かと問題になってしまう現代。しかしその大半は、男女間の生物学的なギブ&テイク、つまりは「女を怒らせたら、男は孤独になるぞ」という危機感と強迫観念の上に成り立っています。だから男性は女性に気を遣い、女性同士は足を引っ張り合う。それはそれで大事ですが、社会全般が女性をやたら『弱者扱い』するのはどうかと思います。そこを履き違えると、配慮はいつしか優遇になり、そして『弱者扱い』に慣れてしまった側は、その特権ばかりを主張することで、結果さらなる壁や格差を生んでしまうのもまた事実。これは『女性』に限らず、あらゆる弱者・少数派に言えることです。

 だとすると、『かわいい』に代表されるような、どことなく否定しづらい空気感満載の『女性的感覚の優遇』が、年々エスカレートしている傾向はいかがなものか? もちろんすべての女性が同じ感覚でないことは重々承知の上ですが、当然のように『ペッパーくん』を「かわいい」のひと言で片付け、「女子はこういうの好きだもんね」などと適当な相槌を打つなんて、『男』として女性に媚びる必要性もない私には断じて出来かねます。

 私はペッパーくんが怖い。あんな無邪気で円(つぶ)らな物体が家に居たら、おちおちパンツも脱げない。世の中、多様性とか言うのなら、まずペッパーくんの種類を増やすべきです。無口なペッパーおじさん。黒くて目の細いペッパー婦人。ついでにカーナビも「フリーダイヤルでお繋ぎします」も「お風呂が沸きました」も、もっと様々な選択肢があってもいいと思います。てか、世の中勝手に喋り過ぎです。

週刊朝日 2017年3月31日号


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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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