取材で会った元男性兵士たちに取材させてもらったことがあります。彼らは家族がいて、地域に溶け込み、子どもたちにも事件について知らせているということでした。その彼らが私の主人公について「なんでこんなに過去を隠そうとしているのかわからない」と仰(おっしゃ)っていました。でも、女性の人生は少し違ったものになるのではないかと思ったのです。

──私も刑期を終えた元兵士たちに会って話を聞いたことがありますが、それぞれ事情はあるにせよ、事件について公に発言しているのは男性ばかりですね。女性たちは、主人公のように沈黙を続けています。

 そうです。私がこだわったのは、永田洋子に対する中野判決文の「女性特有の嫉妬」という指摘です。彼女にその一面があったとしても、嫉妬は女性特有ではありません。山では、赤軍派と革命左派の対立があり、さらに男と女の対立もあったと思います。子どもを産み育てるという遠大な計画も、男の側の「革命的」な言辞や論理の中で消されていったのではないか。

──実際に行われた「総括」には、冷静な視点で見ると、喜劇的とも思える場面がいくつかあります。赤軍派の森恒夫が「目がかわいい」と言われて激怒し、拘束していた女性へのリンチをエスカレートさせていきました。

 過剰反応だし、根底には女性差別があります。笑ってやりすごせばいいだけのことなのに、言葉尻をとらえて「おまえは女を売り物にしている」と責め立てていく。森恒夫が遺稿の中で「女性兵士の扱い方」を誤った、というようなことを書いていますが、自分の中の差別意識も相対化できす、女性が何たるかもわかっていなかった。ひと言で言えば、未熟な若者だったと思います。

──桐野さんは、山岳ベース事件を止めることができたとすれば、どの時点だったと思いますか。

 やはり遠山さんへのリンチではないでしょうか。あのとき女性たちが、特に永田洋子が真っ先に女性性を否定してしまった。赤軍の男たちに囲まれて、女房然としている遠山さんが気に入らなかったとしても、受け流せばよかった。永田たちからしたら、自分たちのキャンプに赤軍の男たちがドカドカとやってきて、我が物顔に暖かい場所を取る。カチンとくるのは当然ですが、女性性の否定にまで飛躍させたのは間違いです。森恒夫が発する男の論理に、女性として永田が対峙できていれば、あんなことにはならなかったかと思います。

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