ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、DeNAからメディアの運営あるべき姿を問う。

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 他社記事や画像の著作権侵害、薬機法違反となる不正な情報発信など、法令違反が常態化していたことが問題視されたIT企業大手DeNAが3月13日、記者会見を開いた。

 同日、記者会見に先立って公表された第三者委員会の調査報告書によれば、同社が運営していた10サイト37万件の記事中、最大2万件の記事に著作権侵害の可能性があり、画像74万点にも著作権侵害の疑いがあるという。報告書は全276ページにも及ぶ膨大なもので、今回の問題の発端となったiemo社とペロリ社の買収経緯からメディアの運用体制に至るまで、DeNA内部で何が起きていたのか、つまびらかとなった。

 2016年12月23日号本連載の結びで「経営陣から『著作権や品質管理に対する認識が甘かった』という謝罪の言葉が出たが(中略)本当に経営陣の『認識が甘かった』だけなのか、『問題を認識しながら利益を追求するためにあえて問題点には目をつぶって突っ走った』のか。そこが現時点では明らかにされていない」と書いた。報告書を読むと後者だったことがよくわかる。2社買収時、同社の法務は買収する2社の運営するメディアが記事の画像部分で明確に著作権侵害をしていることを指摘。侵害状態を解消する措置を講じる必要があると経営陣に伝えていた。つまり、経営陣は2社が著作権的に違法な運営をしていることを認識した状態で買収し、その後も著作権侵害対策を十分に講じることなく運営を続けていたのだ。

 経営陣が2社のメディアの著作権侵害状況を改善するために講じた措置も褒められたものではなかった。記事で必要な画像を原著作権者が公開しているウェブサイトに直接リンクを張って表示させることで著作権侵害を回避したのだ。

 
 わかりやすく言うと、他者のオリジナル画像を、自社の記事内に「あたかも自分が撮影したかのように表示させた」のである。相手のサーバーにある画像を自分の記事内にブラウザーの機能を利用して表示させているのであって無断コピーではないという理屈だ。

 しかし、このやり方で画像を「無断借用」すると、記事が閲覧される度に画像を表示する相手方に回線料金を負担させるという問題がある。相手方にしてみれば、許諾もしていない会社から勝手に画像を使われた揚げ句、本来払わなくてよい回線コストを支払わされるということになる。この直リンクで許諾なく「無断借用」された画像は91万点にも及ぶ。著作権侵害でない(正確には確定的な見解が存在しないグレーな状態)からといって、道義的に許される行為ではないだろう。少なくとも上場企業がやることではない。

 新たに代表取締役として復帰した南場智子会長は会見でメディア事業の再開、サービスの継続を「全くの白紙」と表明した。一連の問題の本質は、メディア運営をきちんと手間ひまかけてやるとメディアから得られる収益よりコストが上回ってしまうという、ウェブメディアの構造そのものにある。手間ひまかけて良い情報を発信しているメディアにお金が回る仕組みをつくらない限り、同様の問題は何度も発生するはずだ。

週刊朝日  2017年3月31日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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