トランプ氏はすでに利益相反問題で提訴され、ロシアとの不適切な関係で調査を受けている。利益相反に関しては憲法に「報酬条項」があり、連邦政府の当局者が外国政府から報酬や贈与を受け取ることを禁止している。同氏は国内外で所有するホテルなどの事業を通して外国政府から報酬を受け取る可能性があるため、全ての事業資産を売却するか、独立管財人が運営する「白紙委任信託」に移さなければならない。

 しかし、それを拒否し、経営権を子供に譲ることで済ませようとしている。その結果、就任直後にワシントンにある政治倫理監視団体(CREW)から提訴された。有罪となれば、弾劾訴追の根拠になる可能性がある。

 また、「ロシアの米大統領選への関与にトランプ陣営が加担したのではないか」とする疑惑で、FBIや上院情報委員会などの調査を受けている。焦点はトランプ陣営の関係者がロシア側と接触し、ハッキングなどで「共謀」したかどうかである。

 これまでにトランプ陣営の選対参謀を務めたポール・マナフォート氏ら数人がロシア側と接触したことは確認されたが、「共謀」の証拠は出ていない。しかし、疑惑は膨らみ、3月1日にはトランプ陣営の幹部だったジェフ・セッションズ司法長官が昨年7月と9月に駐米ロシア大使と面会していたことが発覚。ちょうどハッキング疑惑が問題になっていた時期だ。同長官は上院の公聴会で、「選挙戦中にロシア当局者と面会したことはない」と証言していたため、野党・民主党から「偽証罪にあたる」と辞任を求められたが、拒否した。

 さらに民主党は政治的な影響を受けない特別検察官の任命を求めているが、注目すべきは一部の共和党議員がこれに同調していることだ。再選を意識してトランプ政権と距離を置こうとしているように思われる。とくに大統領選でクリントン候補が勝利した選挙区を地盤とする共和党議員は、地元で高まる「反トランプ」の圧力を感じているようだ。これは大統領の弾劾を進める上でカギとなるだろう。共和党が両院で多数を占める現状では、一定の同党議員の賛成がなければ弾劾できないからである。

 3月12日にギャラップが行った調査ではトランプ大統領の支持率は42%(不支持率51%)と低調で、「公共政策世論調査」(PPP)によればすでに国民の約半数が弾劾に賛成している。今後、さらに世論が高まれば、来年の中間選挙を見据えて弾劾支持に傾く共和党議員が増える可能性はある。

 冒頭のトランプ大統領の「盗聴」発言だが、法律専門家によれば、「大統領職を利用して“虚偽告発”するのは権力乱用にあたり、弾劾訴追の根拠となるだろう」という。(ジャーナリスト・矢部武)

週刊朝日 2017年3月31日号