新しい何かを手に入れるために、人のアイデアを素直に取り込むこと。同時に、自分の中にある要らないものを捨てること。音尾琢真が舞台に取り組むときは、毎回、そんな修業のような作業の繰り返しになるという。
「自分の中にない経験や感情が台本に書かれていて、“わからない”と思うとついくじけそうになります。でも、“わからない”から“できない”わけではない。僕は、わからないことはどんどん演出家の方に聞きますし、そこでいただいたアドバイスを、さも自分が考えたかのように演じるのは、割と得意かもしれない(笑)」
大学の演劇研究会から生まれた演劇ユニット「TEAM NACS」では最年少。10年ほど前に活動の幅を広げてからは、映像以外にも、海外の演出家の作品や、有名作家の翻訳劇など、話題の舞台に数多く出演している。今回挑戦するのは、スウェーデンの作家ストリンドベリの「死の舞踏」だ。もう一作の「令嬢ジュリー」と同時期の上演で、シアターコクーン内に、二つの小劇場が設営されることも注目を集めている。
「稽古をしながらも、自分の才能と技量のなさを痛感する毎日ですが(苦笑)、こういうハードルが高い舞台のオファーが来るようになった喜びを思えば、大概のことは乗り越えられる気がします」
父は警察官。子供の頃は、「将来はお巡りさんになる!」と信じて疑わなかったが、思春期を経て、そんな素直さはすっかり失われてしまった。進路について、初めて真剣に考えたのは高校3年生のときだ。