東京都立川市の病院で暴走し、大破した車。高齢者が運転していた (c)朝日新聞社
東京都立川市の病院で暴走し、大破した車。高齢者が運転していた (c)朝日新聞社

 穏やかに過ごすはずの晩年に、車の運転で人の命を奪ってしまったら? 考えたくもない悪夢だが、現実には高齢運転者による悲惨な事故が相次ぐ。老いを意識した自分が、衰えの目立つ両親が、運転時に意識すべき五つの心得とは。

 まずは30項目のリストを見て、あてはまるものをチェックしてほしい。5カ所以上に印がついた人は要注意。安全運転をより意識し、認知症への移行も気をつけたほうがよい。

 リストをつくったNPO法人「高齢者安全運転支援研究会」の中村拓司さんはこう話す。

「違反歴がない、事故歴がないから、自分の運転はうまい、と自信を持つ高齢者は多い。しかし、運転技能や身体能力は衰えているのです。若いときと同じように体は動かないんだとまずは自覚する。それだけでより安全に運転できるはずです」

 そこで提唱したいのは、心得(1)「能力と体力、衰えの自覚を」

 例えば、高齢者の事故で多いブレーキとアクセルの踏み間違え。中村さんは「(ペダルを踏む)足と頭がうまく連動せず、足の位置のずれを認知できない。ブレーキを踏んだはずなのに瞬間的に車が動きだし、何が起きたかわからなくなる。そして、さらに強く踏み込んでしまう」と話す。

 明治安田生命が健康増進の研究のために設けた組織「体力医学研究所」の永松俊哉所長もこう指摘する。

「高齢になると二つのことを同時にこなすのが難しくなる。特に80歳を超えると、能力はかなり落ちる。運転は二つどころか、こなすべき作業が多数あるので、他のことに気を取られ、空間的な知覚がずれることがあります」

 徐々に進む衰えは、認識しにくい。そこで、心得(2)「家族の同乗で、定期チェック」が大切になる。

「親の車に同乗したり、運転の様子をドライブレコーダーで家族で見たり。『交差点を右折するタイミングがおかしいよ』などと指摘すると、本人の納得につながります」(中村さん)

 同乗の際、車の外観にも注意を。あちこちに傷があれば、危険のサイン。空間認知機能の衰えで、車のサイズや障害物との距離感を見極めにくくなっている。

 心得(3)「他車への気兼ねより安全優先」も、意識したい。例えば、交差点の右折時、後ろに車が連なっているからと無理なタイミングで曲がると、対向車との事故につながりやすい。

「車間距離はたっぷりと、停止して何かする場合はブレーキを踏むのではなく、ギアをパーキングに。こうした、より慎重な行動を意識してほしい。のんびり走ると周囲が気になるかもしれませんが、事故よりはよほどまし」(永松所長)

 また、心得(4)「車依存を脱する代替行動を」も自らのできる範囲で考えたい。中村さんは「(事故の起きやすい)夕方や雨の日はタクシーを使うなど、少しでも事故のリスクを避ける工夫をしてほしい」と話す。

 最後に、心得(5)「免許の返納、ためらうな」。プライドを傷つけられる思いを抱く人もいるが、その決断は身を守る術でもある。

「車は便利であると同時に危険なもの。自分は危ないなと感じれば、ためらわずに返納を考えるべきです」(中村さん)

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