大番狂わせとなったドナルド・トランプ氏が勝利した米大統領選。作家・室井佑月氏は、トランプ氏と安倍首相との関係を巡る報道から、メディアの姿勢に疑問を呈する。

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 アメリカ大統領選の翌日から、各局のテレビはトランプ特集を組んでいる。

「ヒラリーが勝つ」。そう豪語していた識者の方が、「想定内」みたいなことをいいだして、笑ってしまった。

 トランプさんとヒラリーさんが残った時点で、どちらが大統領になるかの確率は2分の1。口には出さなかったものの、一瞬くらいはトランプさんが勝つことも想像はしていた、ってことにしといてあげるか。だけど、この話はどうなの? その方は安倍首相もトランプさんが勝つことを想定していたといいきった。

 その理由として、トランプ陣営の要人の名を挙げ、その人が来日したとき、安倍さん、もしくはこの国の閣僚が会っていた、というのだ。

 あのさ、そりゃあトランプ陣営の人とだって会うだろ。でも、安倍政権の人々はその数倍もヒラリー陣営の人々と懇意にしておった。

 結局、識者のこの方が強調したかったことは「アメリカの大統領が誰になろうと、安倍政権は慌てていない」ってことだ。それは、この国の国民を混乱させたくない、ってことなのか?

 でも、思い出してほしい。国民を混乱させたくないからと、福島第一原発事故後、この国は「SPEEDI(スピーディ)」の情報を隠蔽した。そんな変なことしたんだよ。

 国民を混乱させたくないというのは、国民を取りまとめる側の事情にすぎない。ほんとうに国民のことを考える国民のためのメディアなら、政府の言い分を垂れ流すだけでなく、今おこっていることがどういうことであるのかを、国民にわかりやすく解説すべきだ。

 TPPにしても安保関連法にしても、政府が強引に決めてしまった。それらがどういうことであったか、あたしたちがはっきりとわかるときには、もう取り返しがつかなくなっているのではないか。

 
 トランプさんと安倍さんについては、11月11日付のスポニチの記事がいちばん自然じゃ。

〈民主党のヒラリー・クリントン上院議員(69)の勝利を見込んでいた安倍晋三首相が、外務省に「話が違う」といら立ちをぶつけていたことが10日、分かった〉というもの。

 だいたい、安倍さんは今年9月、次期大統領と見越してヒラリーさんに会い、応援の姿勢を取っていた。

 9日、トランプさんへ送った「同盟」という言葉を連呼した歯の浮くような祝辞をみれば、どんなに安倍さん側が焦っているかがわかるっていうもんだ。

 そして10日の朝、安倍さんとトランプさんは電話会談し(世界で4番目とか)、非常に打ち解けた雰囲気で17日に会う約束を快諾された、という。

 そりゃあ、ニューヨークまで出向くんだから、会ってはくれるでしょ。トランプさんにしたら、さあ、俺に(アメリカに)なにしてくれる、ってもんでしょ。またメディアは、気が合う2人とかいって持ち上げるのか。バカみたい。

週刊朝日 2016年12月2日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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