松山:漫画のコレクションもすごかったですよね。

羽生:彼の家に将棋雑誌がインタビューに行って「将棋をしよう」となったんだけど、足の踏み場もないほどのゴミや蔵書に埋もれて駒が見つからない。「どうなってるんだ!」って編集者が怒ったという(笑)。

松山:テーブルが将棋盤で、その上でカップラーメン食ってるんですもんね。一緒に飲んだり、食事することもありました?

羽生:ええ、対局が終わった後に。でも棋士同士って将棋の話って、基本的にしないんです。

松山:え、そうなんですか。

羽生:お互いに「ここは聞いちゃいけない」っていう暗黙の了解があるんですね。「次はどんな作戦でくるの」とか「ここはうっかりした」とかもちろん言わない。だから気楽といえば気楽というか。

松山:へええ。

羽生:対局していて一番怖いのは「相手が何を考えているかわからない」ことなんです。でも棋士同士ってけっこうお互いをよく知っているんですよ。子どものときから一緒に修業していますしね。

松山:村山さんともですか。

羽生:そう、だからあまり話をしなくても「ああ、こういう考え方をするんだな」と、お互いにわかる。確かに隣で指している彼を見て「大丈夫かな?」と思ったことは一度や二度ではないです。でもそれで同情するなど失礼ですし、それに彼は体調の悪いときに、すごくいい将棋を指したりするんですよ。だから体調の波もすべて含めて、彼が前に進む原動力になっていたのかな、と思います。

松山:村山さんのご実家でアルバムを見せていただいたんですが、羽生さんの結婚式のときの写真があって。

羽生:ああ、来てくれましたねえ。

松山:村山さんが「おめでとうございます」と言っている瞬間なんですが、その写真が、すっごく妖怪っぽかったんですよ。

羽生:あはは。ちょっと違うオーラが出てた?

松山:それを見たとき「これだ! これを表現すればいいんだ!」って思ったんです。村山さんは羽生さんに対して、尊敬と憧れと、いろんな入り交じった感情を持っていたんだなと。その妖怪っぽさは、僕が東出君演じる羽生さんを「もしよかったら、食事に行きませんか」って誘うシーンに生かしたつもりです(笑)。

「松山ケンイチ、天才棋士役で人生最大の危機? 羽生善治との対談で明かす」へつづく

週刊朝日 2016年11月4日号より抜粋