作家・室井佑月氏は、東京オリンピック開催の意義を問い直す。

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豊洲市場のデタラメがつぎつぎと露(あらわ)になっている。それでも、引っ越しを急ぎたい理由のひとつに、

「2020年の東京オリンピックに間に合わない」

 というものがある。またこの名が出てきたな。

 いちばん大切なのは、食の安全じゃないの? 東京五輪後も、市場は使いつづけていくわけだし。

 そうそう、東京五輪のテロ対策のため、共謀罪を名前を変えて、新法案を成立させよう、なんて話も出て来ている。なんで2週間余りの祭りのために、大切な人権を蔑(ないがし)ろにされなきゃならないの?

 もう、わけわかんない!と思っていたら、9月22日付の毎日新聞に「24年夏季五輪 ローマ市長、立候補反対を表明」という記事が載っていた。

 今年6月に初の女性ローマ市長となったビルジニア・ラッジ氏(美人)は、21日、2024年夏季五輪の開催候補地争いへのローマの立候補に反対する方針を表明したらしい。レンツィ伊首相はローマ五輪をイタリア経済再生の起爆剤にしたい考えだったけど、市長が反対したことでローマ開催は断念となりそうだ。

 その理由としてラッジ市長はこういった。

「五輪やスポーツに反対なわけではないが、スポーツをローマに(五輪施設建設の)セメントを流し込む口実にしたくない」

 だよねぇ。あたしもそう思う。

 この国だって、同じだよ。東日本大震災で仮設住宅住まいを余儀なくされている人はまだいる。事故を起こした福島第一原発はそのままだ。セメントを使ってどうにかしなきゃいけないのは、まずそっちだろう。

 もちろん、イタリアでもラッジ市長の表明に反対している人たちもいる。ローマの五輪招致委員会の試算によれば、ローマ五輪で、約17億ドル(約1700億円)の経済効果と、約20万人の雇用創出の効果が見込まれているかららしい。

 だけど、ラッジ市長は会見で、こうもいっている。

「(ローマ五輪開催で)市民や国民の借金を増やすことになる」

 どっちのいうことが正しいと思う?

 はっきりしていることは、ギリシャは五輪開催の後、国がつぶれそうなくらい経済がメタメタになった。ロンドンやリオも格差社会が広がっただけで、儲かったなんて話は聞こえてこない。

 そりゃあ、一部の利権に絡んだ人たちは儲かるのかもしれない。“賄賂”とも疑われるコンサルタント料にポンと2億の金が飛び交うような世界なのだし。

 でも、その他大勢の我々の懐が潤うことなんてあるんだろうか。

 ラッジ市長がいうように、国民は借金という負の遺産を押し付けられるだけなんじゃなかろうか。

 これから人口も減っていくし、維持費のかかる新しいスポーツ施設を借金してまで欲しい国民はいるの? スポーツ観賞は好きだし、アスリートを応援しているけど、それとこれは別です。

週刊朝日  2016年10月14日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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