「続けるためにはまず黒字化することが大切。お年寄りが利用しやすくするため、端末を使わずとも電話で車を呼べる有償のコールセンターを作ることも検討しています」(健康福祉課の大橋裕之課長)

 過疎地では道路運送法で白ナンバーの旅客運送(自家用有償旅客運送)ができるとはいえ、ライドシェアには地元のタクシーやバス業者からの反発も強い。

「タクシー業界から反対が強く、運輸局を介した圧力もある」(自治体職員)

 現にタクシー業界はライドシェアに反対だ。タクシーやバスの運転手などが加盟する自交総連の担当者は苦々しく言う。

「ライドシェアは料金が安いから急速に成長するが、実態は普通二種免許のない一般ドライバーが輸送する危険な『白タク』サービス。そのために、安全にコストをかけているタクシー業者が廃業してしまう。解禁を許してはいけないのです」

 5月、トヨタ自動車がウーバー社との海外での提携を発表すると、全国ハイヤー・タクシー連合会の富田昌孝会長はトヨタの豊田章男社長と会談し、ウーバーとの提携は納得できるものではないと不満を表した。そのタクシー業界も高齢者をターゲットに新たなサービスの模索を始めている。

 9月15日まで都内で実証実験をした初乗り410円タクシーは、高齢者を取り込む狙いもある。新橋駅前の乗車場で調査員に尋ねると、お年寄りの利用は半分近いという。福岡市では、高齢者向けに定額でタクシーが乗り放題になる「ジェロンタクシー」も始まった。

 そもそも日本はこうした高齢者の交通手段が先進国の中で遅れていると話すのは、交通計画に詳しい近畿大学准教授の柳原崇男氏だ。

「一人で公共交通が使えない高齢者や障害者への個別輸送サービスの提供は、欧米では法律で義務付けられたり、行政からの支出があったりします。しかし、日本では法制度すらまだ追いついていない」

 柳原氏は、ウーバーのようなライドシェアと自動運転の2本立てに期待を寄せる。だが交通政策だけでは限界があり、生活に必要な機能が近接するコンパクトシティーなどとの組み合わせが必要と言う。高齢者が活用しやすい公共交通の仕組みとは何なのか。議論を深める時期に来ている。

週刊朝日 2016年9月30日号