ニトリ会長・似鳥昭雄が作家・伊東潤に語った「経営と創作は『短所あるを喜び、長所なきを悲しめ』」 (3/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ニトリ会長・似鳥昭雄が作家・伊東潤に語った「経営と創作は『短所あるを喜び、長所なきを悲しめ』」

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【略歴】にとり・あきお ニトリホールディングス会長。1944年樺太生まれ。北海学園大学卒。1967年に23歳で似鳥家具店を札幌市で創業。2016年、29期連続の増収増益を達成。

【略歴】にとり・あきお ニトリホールディングス会長。1944年樺太生まれ。北海学園大学卒。1967年に23歳で似鳥家具店を札幌市で創業。2016年、29期連続の増収増益を達成。

【略歴】いとう・じゅん 作家。1960年神奈川県生まれ。早稲田大学卒。2013年に『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞を受賞。『江戸を造った男』はデビュー10周年記念作品。

【略歴】いとう・じゅん 作家。1960年神奈川県生まれ。早稲田大学卒。2013年に『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞を受賞。『江戸を造った男』はデビュー10周年記念作品。

江戸を造った男

伊東潤

978-4022514097

amazonamazon.co.jp



似鳥 ええ。僕は社員にも「短所あるを喜び、長所なきを悲しめ」といつも言ってるんですね。みんな短所を気にするけど、そんなもの気にするな、と。僕自身、接客ができないから俺はダメな男だといつもコンプレックスを抱いていたんですが、自分の仕入れた商品が売れるようになったら仕事が俄然(がぜん)面白くなってきたんです。

伊東 僕も同じです。文学賞の選考委員からは「女性が描けてない」と毎回言われるんですが、どうも恋愛とかラブシーンを描くのが面倒なんです。逆に躍動する男たちを描きたい(笑)。そこで開き直り、もう短所は放っておいて、得意なことだけ書こう、と。そうしたら、『巨鯨の海』などダイナミズムにあふれる作品が次々と生み出せました。自分の強みを生かすというのはすごく大事で、短所なんか放っておいてよいと思います。

似鳥 僕が店内を歩いていると今でも店員に間違えられてお客さんに声をかけられるんですが、もう緊張して全身から汗が噴き出ちゃう。で、「もっと詳しいのがいますから連れて来ます。おーい」なんて店員を呼んですぐに退散します。だからいいんですよ、欠点なんか気にしなくても。

伊東 任せるところは人にまかせ、長所を伸ばすことが大事なんですよね。ただ、なかなか自分の強みってわからないんですよね。

似鳥 だから、うちは2年、長くても3年で無理やり配置転換させるんです。いろいろな部署を経験すると、案外自分に合う仕事が見つかるんです。そこで上司が長所を見つけて伸ばしてやると、本人がビックリするほどの能力を発揮するんですね。だから、みんなで長所を探し合え、と。それと、配置転換にはもう一つの利点があります。5年、6年経つと、例えば電話が携帯になったり、作業のやり方にしても今はポケット端末で全部在庫がわかるわけです。時代がドンドン変わっているのに役員が旧式のやり方で指揮していたら、現場は混乱するばかりなんですね。だから、社長以外は執行役員もドンドン入れ替えて風通しをよくしています。

●40歳が「己を知る」人生の分岐点

伊東 瑞賢は、明暦の大火を経験したのをきっかけに材木の買い付けや独創的な日本列島海運航路の開発などを手掛けていくんですが、彼が世に出るのは、ちょうど40歳の時なんです。

似鳥 やはり人生観は40歳ぐらいにならないと変わらないですよね。僕も28歳の時にアメリカの視察旅行で圧倒的な低価格と高機能、そしてトータルコーディネートされた巨大家具チェーンに衝撃を受けまして、同じような店を目指そうと思ったんです。でも、俺の一生を賭けて命がけで取り組もうと決意したのは30代も半ばを過ぎていました。さらにその思いが強くなったのは40を過ぎた頃で海外輸入を始めたんです。台湾、韓国、インドネシア、マレーシア、タイと現地で通訳を1人雇って自分1人で買い付けたんですが、最初はテーブルも椅子もお客さんからのクレームの山でね。だけど、諦めずに続けているうちに、それが海外生産に発展してニトリの商品の中核を担うようになったんです。

伊東 ビジネスでも何でも固定観念に縛られずに飛び込んでみると、意外にチャンスはあるんですね。

似鳥 そうなんです。僕はソファもベッドもまったく造った経験はなかったですが、それでも完璧に造るぞ、と思えばできましたから。

伊東 僕も初めて小説らしきものを書いたのは42歳の時で、ほかの作家に比べて後発なんです。それまでは小説家があふれているので自分が入り込む余地はないと思い込んでいたんですが、イザ飛び込んでみると結構抜け道があるというか、自分の座るべき椅子を見つけられるものです。それが歴史解釈力とストーリーテリング力の融合で、新しい歴史小説の地平を切り開き、誰も追随できない世界を築くことができました。今では大きな財産になっています。ただ、自分の強みや適性を見つける、いわゆる「己を知る」のは40を過ぎないと、なかなか難しいですね。

似鳥 僕もよし、海外を開拓するしかないと思ったのは42です。人生がガラッと変わって見通しもつきました。そして、50代、60代とさらに事業を拡大できたんです。今、72歳ですけど、60代よりも面白いですよ。伊東さんも60代になったらさらに進化した境地は必ずあると思うな。

伊東 今は女性視点の作品も書いています。ところが、ラブシーンが苦手でも女性視点の作品は手ごたえがあるんです。会長は常に前向きでいらっしゃいますが、最後にリーダーに一番必要なものをお聞かせください。

似鳥 基本は「明るい哲学」ですね。障害が出てきても、そこを乗り越えるたびに1歩ずつビジョンが実現していくんだと、考え方を明るく前向きにしていくこと。そして、男女を問わず愛嬌(あいきょう)がある人がいいですね。うちの社員に「結婚相手にはどういう人を選んだらいいですか?」とよく聞かれるんですが、僕は『愛嬌と度胸』と言ってます。

伊東 度胸というのはどういう場合に発揮されるものですか。

似鳥 とにかく失敗を恐れず、たとえ失敗しても後悔しないことです。と言っている僕自身、度胸が足りなくて決断できなかったこともありました。プロ野球チームも、ホテルチェーンも度胸がなくて買わなかった。ホテルなんて4年後に東京でオリンピックもあるからあの時買っておけばよかったと、今となれば思う時もあります。ですから、今でも反省と後悔の毎日ですよ。

伊東 今日は貴重なお話が聞けて本当によかったです。

構成 大西展子


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