そして、教室でマスクを外せないマスク依存の状態に陥った。

 マスクをしていては給食も食べられないので、保健室へやってくるようになる。そんな流れから養護教諭がいじめに気づいた。ネットの世界に潜り込んで大人からは見えづらいいじめは、ようやく解決へと向かうことになった。

 食事時でさえ外そうとしなかったこの女子の例ほど極端ではないにせよ、マスク依存の生徒はどこの学校へ行っても目にするほど、ありふれた存在となっている。花粉症や風邪、インフルエンザの季節に関係なく、一年中、マスクを手放せない子たちだ。
 
 竹内和雄・兵庫県立大学准教授が今年、関西の公立小中学校に勤める養護教諭166人にアンケートをしたところ、マスク依存の生徒が「いる」と答えた割合は、中学校では90・6%にものぼった。

 学校現場では「生徒の自信のなさの表れ」と受け止められている。つまり、何らかの苦しみを抱えている子の可能性が高い。登校してからつける子たちもいる。彼らは、親の知らないところでマスクに救いを求めているのだ。

 保健室は今、家庭に居場所のない子どもたちの最後の砦になっている。そんな実態を『ルポ保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書)で紹介した。養護教諭の生徒への接し方には、大人が子どもを尊重し、育んでいくヒントがたくさんある。(ノンフィクションライター・秋山千佳)

週刊朝日 2016年9月2日号より抜粋